TSB・CTL・ATL活用のガイドラインや注意点の整理

【FTP・LT・VO2max】【わかる パワートレーニング!】【レース対策情報・レース戦術】【期分け・練習計画】【疲労・回復・睡眠】【速くなるためのヒント一覧】2012年5月28日 07:00

TSB・CTL・ATLは、オーバートレーニングを防ぎながら計画的に体力アップを図るさいの、体調管理・計画立案や、重要レースに向けたピーキングを数値で管理できる優れた指標のひとつといえる。比較的新しいコンセプトなので、まだ研究の余地は残されているものの、現段階でもある程度参考になるガイドラインが示されている。今回は、『パワー・トレーニング・バイブル』『パワートレーニング・ハンドブック(仮題・2017年発売予定)』、Peaks Coaching Group Japan の中田コーチ提供の情報、『鈍行・中目黒の自転車メモさん』『TARMACBLOGさん』のブログなどを参考に、TSB・CTL・ATLの活用のガイドラインや注意点に関する情報を整理した。

(2017年6月10日更新)

 

TSB:調子や好調さの度合いを表す

■TSB-20未満に注意・レース当日は+5前後が望ましい

  • TSBは「調子や好調さ( form)の度合い」を数値化したもの。TSBがプラスであれば疲労が抜けた元気な状態で、マイナスであれば疲労が蓄積した疲れた状態と考えられる(ゼロの場合はニュートラルな状態)。
  • TSBが-20未満の場合は、トレーニングのパフォーマンス低下につながる可能性があるので、10日に1回以上のペースでTSBが-20未満に陥らないように注意する。
  • TSBが-50~60の状態が続くと、風邪をひくリスクが非常に高くなる。
  • レース当日の理想的なTSB
    レース当日に+5前後※といった小さな正の値の時に、よいパフォーマンスが発揮できることが多い。ただしレース当日の理想的なTSBはレースの種類によっても変わる。
    ※ジョー・フリールの推奨値は+15~25の範囲
    • 5分未満の短時間・高強度の無酸素運動能力が重要になるレース(トラック競技・BMX・短い上り坂がポイントになるロード・レースなど)では、TSBはプラスが望ましい。
    • 5分以上の長時間の有酸素運動能力が重要になるレースでは、TSBが-10以上(-10~+25)になることが望ましい。ただし-10の場合もでもTSBがプラスに向かって回復傾向であること(右肩上がりになっていること)が大切。
  • TSBのシミュレーションは、TrainingPeaksや、TSBシミュレーター(β版)などで行うことができる。

 

CTL:体力を表す

■CTLの目標値は100TSS・1週間で3~5TSS上昇が無難なレベル・4週間連続で1週間に7TSS以上の上昇には注意

  • CTLは、「長期間(42日間程度)にわたって積み重ねてきた練習効果」を数値化したもので、いわば「体力(fitness)」を表す。CTLの値が高いほど、体力(fitness)レベルが高いと考えられる。ただし、CTLが高い(=体力・fitnessレベルが高い)ことが「レースで高いパフォーマンスを発揮できる」ことを保証するものではない(TSBの調整も重要)。
  • 選手として目指すべきCTLの目途値は、100TSS程度といわれている(100TSS以下では練習不足の可能性がある)。他方、練習時間の制約がある社会人であれば60~80TSS程度が限界の場合もあり、ワールドツアークラスの選手では150TSSを超えるケースもある。CTLの適正値については、個人差が大きいため注意が必要(CTLを上げることだけにこだわってはいけない)。
  • CTLが徐々に上がって行くように練習計画を組むことで、安全かつ持続的に体力を向上させていくことができる。具体的には、CTLを1週間あたり5TSS(3~7TSS)程度ずつ上げて行くのが無難なレベル(CTLは1週間で5TSS以上増加させないほうがよいとの指摘もあるので、自分の能力に応じて適宜調整する)。
  • CTLを急激に上げ過ぎると、オーバー・トレーニングに陥るリスクがある。特にCTLが1週間で7TSS以上もの上昇が4週間連続した場合は、注意が必要(練習強度・量などを見直したほうがよいと考えられる)。
  • ピークに向けて練習を積み重ねている場合は、CTLが2週間連続で低下しないように注意する(2週間連続の低下は、いわば「休みすぎ」で「練習をサボっている」状態に近いと考えられる)。
  • 重要レース前の調整の場合は、テーパリング期間も考えると、2~3週間前にCTLが最大値に達するようにする。テーパリング期間中のCTLの低下幅は、10%程度であれば許容範囲内。

 

ATL:元気さや疲労度合を表す

■ATLが1週間で70TSS以上の上昇には注意・ATLがCTLを長期間上回るのは危険

  • ATLは、「直近(7日程度)の練習の影響」を数値化したもので、いわば「元気さ(freshness)や疲労(fatigue)」の程度を表す。ATLが高いほど「疲れた状態」で、低いほど「疲労が抜けた元気な状態」であると考えられる。
  • ATLを積み上げることでCTLが向上していくが、ATLを急激に上げ過ぎるとオーバー・トレーニングに陥るリスクがある。特にATLが1週間で70TSS以上も上昇した場合は、注意が必要(練習強度・量などを見直したほうがよいと考えられる)。またATLがCTLをかなり長期間上回る状態が続いている場合も、オーバー・トレーニングに陥っている可能性が高いと思われる。

 

その他注意点

■FTPの正確さとTSSデータの欠落がないことが大切・練習以外のストレス要因が反映されていない点には注意

  • TSB・CTL・ATLはTSSをもとに算出されるが、TSSの数字が正しいことが前提になる。正しいTSSの算出には、FTPの値が正確であることが必要なので、FTP計測は最低2か月に1回は行ったほうがよい。
  • TSBを「実際に使える指標」にするためには、全走行データのTSSが必要となる。何らかの理由でTSSが不明になった場合は、よく似た運動強度や持続時間のデータを参考に、推定値を入力することが望ましい。
  • FTPの値が明らかに不正確な場合や、TSSのデータが大量に欠落している場合は、TSBの精度が低くなる。そのような状態でTSB・ATL・CTLでのトレーニング管理をしても、かえって体調管理やピーキング上で悪影響を及ぼすリスクが高いので、使用しないほうがよいだろう。
  • TSBは、今まで目に見えず感覚で推測するしかなかった「調子」をかなりの精度で数値で管理できるといった意味でかなり画期的なコンセプトだが、「トレーニングが体に与えたストレスだけしか反映していない」という限界点もある。つまり仕事を始めとする日常生活のストレスがかなり高い場合などには、TSBだけ見ていてるとオーバー・トレーニングに陥るリスクがある。その意味ではTSBなどを参考にしつつも、最終的には「自分の身体の声」にもよく耳を澄ませて、総合的に判断したほうがよいだろう。

 

参考URL

 

情報提供者

  • 中田尚志コーチPeaks Coaching Group Japan

    coach_01_Takashi_Nakata

    Peaks Coaching Group Japan 代表。Peaks Coaching Group エリートレベル認定コーチ。2013年全米自転車競技連盟パワートレーニングセミナーを修了。2015年にトレーニングピークスユニバーシティを受講し、最先端のパワートレーニングを学ぶ。現在までに15,000以上のパワーデータを解析。2016年から京都を拠点に、パワーベースのコーチングを日本で展開する。自身も日本・アメリカでレース経験を持つレーサーでもある。

     

    Peaks Coaching Group Japan

 

参考文献

  • ハンター・アレン アンドリュー・コーガン博士・『パワー・トレーニング・バイブル』・P189~220・OVERLANDER株式会社
  • ジョー・フリール・『パワートレーニング・ハンドブック(仮題・2017年発売予定)』・OVERLANDER株式会社