トライアスリート(TT)向けパワトレ・メニュー(FTP・効率性改善)

【FTP・LT・VO2max】【トレーニングメニュー】2012年9月3日 07:00

トライアスロン選手は、バイクに関しては「サイクリング」のような楽しみを求めず、純粋に体を鍛えるための「トレーニング(≒苦行)」と割り切る傾向があるといわれている。そこで「苦しいが体力アップにはひじょうに有効」なローラーでのパワー・トレーニングに意欲的に取り組む選手が多い。今回はトライアスロン雑誌『LUMINA』や『パワー・トレーニング・バイブル』で紹介されているトライアスリート向けのパワー・トレーニングの練習メニューの一部を紹介する。FTPを上げることや効率性改善に重点を置いた内容なので、ロード・レーサーにとっても参考になるだろう(特にタイム・トライアル指向の選手にはおすすめ)。■この記事は、旧サイトからの移行分です(2012.01.13の記事です)■


彦井浩孝さんのパワー・トレーニング例

コンピュトレーナーを活用した指導や研究で著名な彦井さんは『TRAINING AND RACING WITH A Power Meter』をベースにしたトレーニング方法を推奨しており、ベースづくりの期間とレース直前で練習内容を変えるのが特徴だ。

■ベース期の練習メニュー

まずベース期には、平日と週末で練習内容を変える。平日はローラーで、20~30分間・FTP90%維持を行う。週末は実走で2~3時間FTPの70~80%で行う。

■レース3週間前からの練習メニュー

次にレース3週間ほど前から、短時間・高強度の練習を行うことで疲労を残さずコンディションを整えるような練習に切り替える。具体的には3分間・FTPの120%維持を4本(レスト3分)行ったあとに、3分間・FTPの130W維持でもがくといったものだ。

(出展:『LUMINA November 2011』)


宮塚英也スポーツ研究所所長のパワー・トレーニング例

元プロトライアスリートで耐久系スポーツ選手の指導・研究を行っている宮塚所長のトレーニング方法は、パワー・メーターと心拍計を併用した比較的短時間のインターバル・トレーニングが中心となっているところに特徴がある。

■トレーニングの目的

また以下の2点を目的としたトレーニングをするべきと強調されている。

  1. 同じ心拍数でトレーニングを行い、出力*のほうを高めていく

  2. ある一定の出力*をキープするトレーニングを重ね、心拍数のほうが下がってくる

*出力=パワー・ウェイト・レシオ

■今泉奈緒選手の練習メニュー

宮塚所長の指導のもと、今泉奈緒選手が2008年にアイアンマン・ジャパンなどを制する前に行った練習の一部は次のようなものだ。

  • 1分間・6W/㎏維持(2分イージー)×5セット

  • 5分間・4.7W/㎏維持(3分イージー)×2セット

この練習によって今泉選手のペダリング技術は向上し、低いエネルギー消費で同じパワーが出せるようになり(同じパワーを出している時の心拍数が下がった=効率性が改善した)、2008年シーズンに躍進を果たしたという。

(出展:『LUMINA November 2011』)


トライアスリート(TT選手)向けFTP向上メニュー

この練習メニューは『パワー・トレーニング・バイブル』でトライアスリート向けメニューとして紹介されているものの一部で、FTPレベルでダイレクトに鍛えつつ、定期的にダッシュを織り交ぜることで地形の変化への対応や、遅い選手を追い抜くときに必要となるペースアップをシミュレーションする内容だ。

  • まず20分間・FTPの95~100%維持のインターバルを2本行う(レスト10分)。

  • インターバル中の4分毎に10秒間ダッシュする(20分中に計5回ダッシュする)。

  • 2本終了後、10分間のレストを挟み、最後に20分間・スイートスポット(FTPの88~93%)で維持する。

(出展:『パワー・トレーニング・バイブル』)


上記メニューの特徴

■FTP向上に重点を置いた練習メニュー

これらの練習メニューは、FTP向上に重点を置いたものなので、ロード・レーサーであっても「当面はFTPを上げることに集中したい」という場合であれば、ひじょうに参考になる内容といえる。

■走行効率を上げるための練習メニュー

また宮塚所長の練習方法は、いわば走行効率を上げるための練習メニューであり、ロード・レースで最後に勝負に絡むには「いかにエネルギーを節約して勝負どころまで足を残すか」が重要であることを考えると、取り組んでみる価値はあると思われる。

■注意点:ロード・レースのほうがパワーの変動幅がはるかに大きい

ただし、トライアスロン(TT)に比べるとロード・レースのほうがパワーの変動幅がはるかに大きいので、ロード・レーサーのほうが、さまざまなエネルギー系の能力やスキルを鍛える必要がある。ロード・レースに参戦予定であれば、この練習をするだけでは、スピードの変化などに対応できない可能性が高いので注意が必要だ。

■参考文献の紹介

『LUMINA』の2011年11月号には、上記で一部紹介したトレーニング方法について詳しく説明されており、また自転車雑誌でも有名な柿木博士を含めた対談など興味深い記事が掲載されているので、パワー・トレーニングに興味があるひとにはおすすめだ。

 

参考文献

  • 「特集 トライアスリートのためのパワートレーニング」・『LUMINA November 2011』・P42~45
  • ハンター・アレン アンドリュー・コーガン博士・『パワー・トレーニング・バイブル』・P272~273
    OVERLANDER株式会社