ペダリング・ドリル ~サイクリストとして知っておきたい、ペダルを効率よく動かす方法を身につけるための6つの練習方法~

【トレーニングメニュー】【ペダリング・ポジション・スキル】【立ち読み版】2017年5月15日 14:08

 

ペダリング・ドリルでは、ペダルを効率よく動かす方法を身につけることを目的とします。目的を明確に理解することで、練習の効果が高まります。こんな風に考えてみましょう。あなたは、自転車を動かすエンジンです。ペダルを動かせばクランクが動き、クランクを効率よく動かすほど、少ないエネルギーで自転車を動かせます。

 

■ペダリングの仕組み

「意識してペダリングの仕組みを学ばなくてもよい。〝ただ自転車に乗る〟だけで速くなる」という人もいるでしょう。このような考えにも一理はあります。しかし、この手のセリフを口にするのは、たとえばテニスを楽しみながらも、決してレッスンを受けようとしない人たちです。彼らは、確かにそれなりにボールを打ち合えるようにはなるはずです。しかし、何を練習すればよいのかわからず、当然、練習も行わないので、上達には自ずと限界が生じます。

まずは、しっかりとしたプラットフォーム作りから始めましょう。ペダルとシューズはクランクにパワーを伝えるものであって、パワーを奪うものではありません。踏み面が広いペダルと硬いシューズを使った方が、足が前後にぶれてしまう小さなペダルや、ペダリングの負荷で曲がってしまうシューズよりも効率が上がります。人によっては、フロート角が大きすぎると問題が生じる場合もあります。それは、氷のブロックの上でスクワットをするようなものです。

ダウンストロークは、ペダルにパワーがかかるポイントであるために、パワー出力において最も重要です。ダウンストロークで膝が足の拇指球(またはペダル)の軌跡からずれている場合は、フィッティングによるポジション調整の必要があるかもしれません。

また、臀部と膝を安定させるための筋肉を鍛える必要があるとも考えられます。12章で紹介した筋力トレーニングのエクササイズによって、これらの筋力を強化しましょう。意識的に足をピストンのように上下に動かします。風になびく旗のような動きにならないようにします。

クランクアームに対して90°の方向に力をかけます。ペダルが頂点(12時の方向)にきたら、ペダルを前方へ動かします。6時の方向にきたら、ペダルを後方へ動かします。ペダルを真下に踏み込むのは、ちょうど3時の方向にきたときだけです。2時の方向ではペダルをやや前方に、4時の方向ではやや後方に押し下げます。これを常に実行するのはほぼ不可能ですが、この考え方を理解しておけば、ペダルへの力のかけ方を改善するのに役立ちます。

サイクリストはよく、ペダルが1番下(6時の方向)にきてもまだペダルを踏み込み、あたかもクランクアームを伸ばそうとするかのような動きをする場合があります。これにより体がサドルから「浮いて」しまうのですが、それはその瞬間、真下にペダルを踏み込んでいるので、力をどこかに逃がさなければならないためです。サドルの上で尻が跳ねることもあります。この現象は、高いケイデンスでの走行時、ペダルと足の動きを同調させることができない場合によく起こります。ペダルの回転に足の動きが追いつかなくなり、足を後方へ動かすべき位置でペダルを踏み込んでしまっているのです。

 

ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト 図13.1

 

まずペダルを引き上げ、ペダルを前方に押して頂点(四分円のQ1)を通過させることからペダリングを開始します。これにより、ダウンストロークの手前から力をペダルにかけられるので、パワーストロークが長くなります。ペダルが描く輪を、上下左右の4つの重なり合う部分からなる円だと考えます(図13.1を参照)。上部は10~11時から1~2時の位置、前部はそこから4~5時の位置まで、下部はそこから7~8時の位置まで、後部はそこから10~11時の位置(四分円のQ1の開始位置)までになります。ただ単にペダルの回転に足を委ねるのではなく、少し力を加えてペダルに頂点を越えるような動きをさせることを意識します。全力でペダルをこぐという意味ではありません。大切なのは、クランクを動かすのに必要なだけペダルを引き上げて前に押し出し、早めにパワーストローク(四分円の Q2)ができるようにすることです。

ダウンストローク(四分円のQ2)ではペダルを踏み込みましょう。当然のように聞こえるかもしれませんが、速いサイクリストと並みのサイクリストには、ペダルをどれだけハードに踏めるかという点で大きな違いがあります。どれだけペダルをハードに踏めるかは、低ケイデンスで勾配のきつい坂を上るときにわかります。もちろん、常にそれほどハードに踏む必要はなく、極端に低いケイデンスで走行すべき、というわけでもありません。ただし、これが四分円のなかで最も効果的にペダルに力をかけることができる「パワーストローク」であることを覚えておきましょう。自転車を加速し、そのままスピードを維持しないといけないような局面では、このパワーストロークを活用して、クランクをハードに動かす必要があります。11章で紹介した低ケイデンスでのドリルは、この能力を鍛えるのに役立ちます。

ペダルを後方に引いて円の真下(四分円のQ3)を通過させます。こうすることで、ペダルを回転させる間に一定の力を維持し、運動が途切れないようにできます。また、上死点を通過させるために動いている方の足をサポートできます。この動きは、「靴底の泥(あるいは、もっと嫌なもの)をこそげ落とす」など、さまざまに表現されます。

上がってくるペダル(四分円のQ4)には荷重がかからないようにします。上がってくるペダルの上で足を休ませると、踏み込む方の足への抵抗が増えます。足をペダルから引き上げる必要はありません。荷重がかからないようにするだけで十分です。目的は、それによってエネルギーを使い切ることや、足を靴から引き抜くことではありません。このことによってさらなるパワーを発揮しようとするのではなく、もう片方のペダルを踏むのに必要なエネルギーを減らすことを意識します。ボックスの上に乗るときのように、膝を上げてみましょう。

これらの側面を1度にすべて向上させようとしたり、それによってパワーが飛躍的に高まることを期待したりしないようにしましょう。ごくわずかであっても、効率が向上することには大きな価値があります。ペダリング効率の練習は、1度につき1つの側面にのみ取り組むこと。これにより、ペダリング・スキルをより早く改善でき、徐々に各側面をまとめて、1つの連動した動きができるようになります。

他の練習と同じく、これから紹介するドリルの前には、しっかりとウォーミングアップを行ってください。走行前に2種類程度のドリルを選び、トレーニングセッションを通じてその練習に集中することをおすすめします。

 

■バックアンドフォース

バックアンドフォースでは、ペダリングの動きのなかで、一般的に最も強化が必要な領域(四分円の上部[Q1]と下部[Q3])を重視します。このドリルでは、ペダルを上部で前方に押し、下部で後方に引く動きを意識します。ペダルを上下させるのではなく、前後させるイメージです。始めはぎこちなさを感じますが、しばらくすれば上部の手前で力をかけ始め、それを下部でペダルを引いてサポートすることに慣れていくはずです。

その他のドリルと同じく、筋肉をリラックスさせることも意識します。このドリルは、走行中にいつでも実践できます。特に、中程度の一定の運動強度での走行中が適しています。できるだけ多く、練習に取り入れるようにしましょう。

 

■ピストン

上りでは、膝を上げることを意識します。これはペダルに体重がかからないようにするためです。踏み込んでいる方のペダルの抵抗が若干弱まるのを感じるはずです。膝を垂直に上げ、上死点を越えてから下にまっすぐ足を踏み込むようなイメージで行います。膝はピストンのように垂直に上下させます。室内練習時には、目の前に大きな鏡を置いて膝がきちんと上下しているかを確かめてみましょう。黒いテープを鏡に垂直に貼って、その線を基準にすると簡単に確認できます。

このドリルを難しく感じたり、違和感を覚える場合は、有資格者のサイクリングコーチやフィッティングの専門家に自転車を見てもらう必要があるかもしれません。また、安定筋の筋力も診てもらうとよいでしょう。アメリカの理学療法士の多くは、こうした診察をする資格を持っています。地元のサイクリング仲間に紹介してもらいましょう。

このドリルは、四分円の前部と後部に注目しますが、四分円すべての練習に取り組むべきです。30秒間上下の動きをした後は、前後の動きを加え、四分円すべての領域でのペダリングを訓練します。上下または前後にペダルを動かしているときの感覚を記憶し、そのときの感覚を全体的なペダリングに活かし、四分円すべてで効率的な動きができるようにします。

 

■片足ペダリングまたは片足メインのペダリング

片足ペダリングまたは片足メインのペダリングでは、単にペダルを踏み込むのではなく、四分円のペダルを1回転させる間に、実際にペダルをどう動かしているのかという感覚を筋肉に覚え込ませることを目的とします。片足ペダリングは固定ローラーで、片足メインのペダリングはペダルに両足をビンディングで固定した状態の実走で行います。

一方の足を固定せず横にぶら下げた状態で走行すれば、筋肉の使い方に問題が生じてしまいます。このため、室内では自転車や固定ローラーの隣に小さいストールや椅子、ボックスを置きます。片方の足をビンディングから外してボックスの上に載せ、もう一方の足だけでペダルを回します。ペダルを踏んでいるときのようにサドル上の腰が水平になるよう、ボックスや台の高さを調整しましょう。

上達するまでは、ケイデンスは低く、負荷は軽く、走行時間は短くします。10~20秒間ごとに(または疲れたら)足を交代し、徐々に(数週間をかけて)走行時間、ケイデンス、負荷を上げていきます。ただし、これは筋力トレーニングではないので、負荷は軽めにとどめます。

片足だと、ペダルを1回転させる間、常に力を入れなければなりません。ペダリングの下部でペダルを後方に引き、上に引き上げ、前方に押して上部を通過させる際に、大きな労力が要ることがすぐにわかるはずです。この感覚は、特に股関節屈筋(大腿を胸の方に引き上げるのに使う筋肉)で強く感じられます。ペダルを下部から上部へと引き上げる動きを意識し、できるだけ均一な速度で、滑らかにペダルを回転させるようにします。ペダルを上部に引き上げ、上死点を通過させる際に、勢いを利用してペダルを「放り投げる」ような動きをしてはいけません。ゆっくりと、意識的にペダルを動かしましょう。片足ペダリングは、初めは難しいかもしれませんが、週2~3回、5~10分間練習すれば、数週間後には上達を実感できるでしょう。

ここでも、足をリラックスさせ、ペダリングの各動作をスムーズに移行させることを意識します。レッグ・スピード・ドリルと同じく、固定ローラーに接するタイヤから聞こえてくる回転音が、一定の安定した音かどうかに耳を澄ませましょう。

実走でも、片足をメインに使った同じようなドリルを行えます。片足に意識を集中します。下部でペダルを後方に引き、ペダルを引き上げながら膝を上げ、上部で前方に押し出します。このドリルは、必ず両足同じ時間ずつ行います。片足で90秒間、または疲れるまで回したら足を交代します。

このドリルをすると、どちらか一方の足の方が力強いことに気づくかもしれません。これは、左右の筋肉がアンバランスであることを示唆している場合もあります。両足を使っているときにこのアンバランスに気づきにくいのは、強い方の足が多くの仕事をしてその差を補っているからです。筋肉のアンバランスさが疑わしい場合は、12章で説明した片足でのレッグ・プレスやハムストリング・カール、レッグ・エクステンションを行って両足のバランスを確かめてみてください。

 

■レッグ・スピード・ドリル

足の筋肉のなかには、お互いに逆の働きをするものがあるため、ペダリングに抵抗が生じる場合があります。この抵抗がエネルギーを浪費させ、パフォーマンスを低下させることもあります。他の身体的な技能と同じく、この抵抗を減らすような動きを筋肉に覚え込ませることができます。レッグ・スピードを鍛えることで、高ケイデンスでも滑らかに走れ、自分のケイデンスでもより効率的に走れるようになります。

この練習は固定ローラーや、屋外の穏やかな下りでも行えます。負荷は軽め~中程度とします。サドルの上で尻が跳ね出すまで、ゆっくりと(10秒ほどかけて)ケイデンスを上げていきます。ペダルの回転が滑らかになるポイントまでケイデンスを落とし、そのケイデンスを20秒間維持します。その後ゆっくりとケイデンスを下げていきます。

足の筋肉をリラックスさせ、ペダルを滑らかに回転させます。つま先と足首をリラックスさせることを意識し、無理な力が加わらないようにします。足の緊張を解き、エネルギーが自然に流れるようにしましょう。滑らかで、素早く、それでいて力まない動きを目指します。

固定ローラーでこのドリルを行うと、タイヤから「シュッ」という摩擦音が聞こえるはずです。「シュッシュッシュッ」という音がしたら、その音を持続させるようにします。一定の音が継続するということは、パワーが一方のペダルからもう一方にスムーズに移行し、ペダリングが2つの別々の動きではなく、1つの動作になっていることを意味します。

スムーズなペダリングは、オフロードでのサイクリングでもきわめて重要です。上りで後輪の静止摩擦が効かなくなると、このシュッシュッという音が滑るような摩擦音に変わります。高校生の頃はタイヤを空転させることがクールに思えたかも知れませんが、サイクリングの世界ではエネルギーの浪費につながってしまいます。

このドリルの間(あるいは、多くの場合はドリルの終了直後)には心拍数が上昇しますが、運動強度は快適なゾーンにとどめます。このドリルによって、適切なタイミングで、筋肉に指令を送るための神経経路が発達していきます。筋肉の記憶も強化されます。次第に体が無意識に動くようになりますが、そのためには多くの練習が必要です。

レッグ・スピード・ドリルは、ロングライド全体を通じて行ったり、ウォーミングアップから高強度の走行への移行時にも行えます。基礎期を通じて、耐久走をする度に、3~5回ほど繰り返すようにしましょう。中程度の下りでは、20~30秒間、足の動きを速めることを習慣にしましょう。

 

■耐久スピニング

耐久スピニングは、通常よりもやや高いケイデンスでの一定時間の走行です。誰でも好みのケイデンスがありますが、このドリルでは、それよりも高いケイデンスでスムーズかつ快適に走れるようになることを目指します。高ケイデンスだと、低ケイデンスに比べ、1回転ごとに少ない力で同じパワーを出力できます。パワーは、力×スピードで表されます。このため、同じギアでも速くペダルを回せばパワーは上がります。また、同じケイデンスでもギアを重くすればパワーが上がります。

さまざまなケイデンスで、効率的にペダルを回せるようになるべきです。短くて勾配のきつい上りで悪戦苦闘したかと思えば、足場のよい道を高速で走り抜けることもあるマウンテンバイクのレースでは、これが特に当てはまります。ロードレースにも、40rpm 程度までケイデンスが落ちる勾配のきつい上りや、短時間ながら120rpm 以上のケイデンスでの加速が求められる局面があります。スプリントでも、きわめて高いケイデンスで苦もなくペダルを回す能力が求められます。あらゆるケイデンスで効率よく走れることができれば、有利になります。多くのサイクリストは、低ケイデンスで練習しています。それは、地形によってそれが強いられるという側面もありますが、サイクリストが高ケイデンスを嫌うことも要因です。高ケイデンスでの練習を避けてはいけません。

耐久スピニングは、多少アップダウンのある平坦基調のコースを、追い風のある状態で14~16mph(約23~ 26km/h)ぐらいの中程度のスピードで走行します。楽なギアにシフトしケイデンスを上げることで、同じスピードを維持します。楽だと感じる上限ぎりぎりのケイデンスで回せるギアを選択します。この高ケイデンスのまま、約5分間、一定速度で走ります。これは高強度のインターバルトレーニングではないので、心拍数が上がりすぎないように速度を抑えましょう。

心拍数の上昇は、スピードが速すぎるかケイデンスが高すぎることを意味します。心拍数とパワーは、Z1~2に抑えます。目的は速くペダルを回すことですが、その時点で体が対応できる速度を超えてしまわないように気をつけましょう。ペダリングは尻が跳ねることなく、スムーズであるべきです。正しいフォームで練習しなければ、効果はありません。ペダリングドリルで学んだ動作を総動員して、滑らかな動きを目指します。持久系走行のなかに、このドリルを2~3回、各5分間組み込むとよいでしょう。

5分間のインターバルの平均ケイデンス、パワー、心拍数を記録することで、向上の度合いを確認できます。

 

■Z3スピニング

ハードな持久力トレーニングをとり入れるベーストレーニングの終盤では、さらにきつい耐久スピニングを行うことも可能です。心拍数Z2の上限で一定のペースを決めます。速度を確認してから、1段軽いギアにシフトチェンジしますが、ここではケイデンスと走行速度を上げて、心拍数を Z3まで上げます。心拍数がZ3の上限まで達したら、回復するまで(心拍数がZ2の上限に下がるまで)ペースを落とします。2~3分間でZ3の上限まで達するようなペースで走ります。ハードな持久系の練習のなかで、このドリルを3~5回繰り返します。

 

 

  • 記事出典:トーマス・チャップル著・児島修訳・『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』(OVERLANDER株式会社)・P280~289の抜粋
    ※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。