リード・アウト ~スプリント・ドリル:エーススプリンターの勝つ確率を高めるための練習メニュー~【BBC】

【トレーニングメニュー】【レース対策情報・レース戦術】【立ち読み版】2015年7月24日 00:03

私は、レースシーズン前にリード・アウトの練習をするチームが少ないことに驚いています。チームでリード・アウトの技術を磨いておくことは重要です。優れたリード・アウトは、芸術的でもあります。プロツアーのトップチームのような域に達することはできないかもしれませんが、技術が高まるほど、チームのスプリンターが勝つ確率は高まります。ベーストレーニングでのリード・アウトの練習は若干時期的に早いかもしれませんが、早く始めればそれだけの効果が見込めます。

■リード・アウトの目的

この練習を行うには数人のサイクリストが必要です。レースの最後にチームメイトが4人以上先頭集団に残り、パワーが出せる状態でなければ、他のチームのリード・アウトの列車を使うなど、エーススプリンターのために何か他の手段を考えるしかありません。1~2人の選手でスプリンターをリード・アウトすることも可能ですが、フィニッシュラインの遠くからしかけることはできず、そのペースを長くコントロールすることもできません。

「長い列車でスプリンターをフィニッシュまで引く」という戦術には、「集団を引き伸ばし、自チームのスプリンターに他のチームの選手がついていけないほどのペースをつくる」という目的があります。列車を引くチームメイトが多いほど、フィニッシュラインから遠い位置でしかけることができ、高速ペースを維持できる距離も長くなります。フィニッシュラインから遠く離れた地点からしかけるとすれば、先頭を引く選手が順番に列車の後ろに下がりローテーションを回す必要が生じる場合もあります。この場合、最も持久力がある選手が先頭を引き、列車の後方に下がります。目的は、自チームのスプリンターがフィニッシュラインの手前200mで集団の先頭に立てるように引くことです。これができたら、スプリンターは後ろの選手よりも自転車1台分有利になります。またはチームメイトの数が十分ならば、自チームのスプリンターの後ろにスイーパー役を置き、他のチームの選手をスプリンターの真後ろにつけさせないようにすることもできます。

■スプリンターが出す指示や、レースでの注意点

スプリンターは、減速、加速、右か左に下がるなどを声に出して列車を指揮してもよいでしょう。列車の先頭から下がるサイクリストをうまく使って、スプリンターの近くに位置取りしようとする他のサイクリストやチームの動きを阻むという戦術もあります。他のサイクリストたちが左側から寄ってきたら、それを確認できる位置にいるスプリンターが、先頭のサイクリストに左側から下がるよう指示します。ただし、この動きは危険を伴うので、特に下のカテゴリーでのレースでは十分な注意が必要です。列車の先頭から下がるときにスピードを落としすぎると、後ろにいる他のチームの選手と玉突き事故を起こす可能性があります。道路のスペースが限られている場合は、衝突も起こりやすくなります。スプリントをしない選手は、フィニッシュラインの200m手前の地点までに、列車の先頭から下がりましょう。その地点を越えたら、列車にとどまり左右に動かないようにします。

■ロングライドの終わりにチームで練習する

この練習をすることで、ペース配分の戦略も磨くことができます。自分のチームの列車が、どれくらいの速度で、どれくらいの距離を走れるかを知らないままレースに出場すれば、飛ばしすぎてフィニッシュの前に力尽きることも考えられます。これではスプリンターが取り残され、チームの努力が無駄になってしまいます。チームでのロングライドの終わりには、リード・アウトの練習を2回程度行うようにしましょう。

■エーススプリンター向けの、パワースプリントのバリエーション

もし、あなたが優勝を狙える強いチームのエーススプリンターならば、ゴール手前まで列車に引かれてフィニッシュラインの手前でスプリントをかけることを想定して、パワースプリントの練習を行うとよいでしょう。そのためには、スピードが出やすい長い下りのあとに平坦な直線が続くコースを探しましょう。下りを利用してスピードを上げ、平坦な区間に入ると、あたかもリード・アウトの列車の目の前のサイクリストが先頭から外れ、自分が風のなかへ解き放たれたかのように感じるはずです。平坦区間に入ると同時にスプリントを開始し、できるだけ加速して、その速度を長く維持します。

 

※この記事は、『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』児島修訳・OVERLANDER株式会社(原題:『BASE BUILDING for CYCLISTS』トーマス・チャップル著・velopress)の立ち読み版です。『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』は、『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』を下敷きにした、1年のなかでも最も重要でありながら、最も理解されにくい時期でもある「基礎期(ベーストレーニング期)」に、どのようにトレーニングすべきかを詳しく掘り下げた好著です。■