『自転車競技のためのフィロソフィー』速報レビュー

【パワトレ機材まとめ】【パワトレ機材・ソフト】2012年9月23日 14:24

自転車雑誌などでおなじみの柿木克之さんによる、待望のパワトレ教本『自転車競技のためのフィロソフィー』の速報レビューです。

 

『自転車競技のためのフィロソフィー』速報レビュー

■「理論的」「実践的」なパワートレーニングの教本

運動生理学の知識のバックボーンと、日本トップレベルの選手を含む様々な選手の指導・共同研究の成果をベースにして、理論だけに偏らない実践的なパワートレーニングの手法が紹介されています。

パワートレーニングに興味があり、もっと速く強くなるための「理論的背景」や「具体的な方法論」を知りたい方には、役立つ点が多いと思われる「パワートレーニング」の教本です。良書です。おすすめです。

■Mapeiトレーニングセンターの強化方法がベース

本書で紹介されているトレーニング方法は、著者の共同研究者である柿木孝之さんが、MapeiトレーニングセンターのAlso Sassi氏のもとで学ばれた強化方法をベースに独自の強化法としてアレンジ・発展させたものとのことです。

■目次

本書は以下の8章から構成されています。

  • 第1章 自転車レースの特徴と定量化へのアプローチ
  • 第2章 自転車競技に関わる代謝の基礎知識
  • 第3章 トレーニングの定量化について
  • 第4章 トレーニングの効果
  • 第5章 トレーニングの基本単位構成(メニュー)
  • 第6章 トレーニングの目標
  • 第7章 トレーニングの構成
  • 第8章 トレーニングの管理

 

気になるポイントのピックアップ

選手にとって特に役に立つ(もしくは気になる)のは第3章と5~7章ではないでしょうか。その一部をかんたんに紹介します。

■LTパワーの測定方法

第3章では、LTパワー値の測定方法が紹介されています。
本書でのLTパワー値の定義は「Lactateカーブのベースラインから1mmol/l上昇したポイントのパワー値」と定義されています。
具体的には、「固定ローラーでの測定方法」と「ヒルクライムTTによる測定」の2種類が紹介されており、肉体的・精神的負荷はそれほど高くなく、比較的取り組みやすい方法と思われます。

■基本単位メニューと応用メニュー

第5章では、基本単位メニュー(7種類)と、応用メニュー(5種類)が紹介されています。
各メニューについて、詳細な行い方や注意点などとともに、20段階のRPE表(主観的運動強度表)とパワー・データのグラフなどがわかりやすく掲載されています。

特に日常的にパワー・データの分析ソフトを使っている選手であれば、パワー・データのグラフ例を見れば、実際にメニューに取り組むうえで、イメージがつかみやすいと思います。

なお、メニュー名は、従来の「メディオ」「ソリア」などといった用語を、パワトレ用に「ミディアム」「ストロング」などといった用語に再定義されています。

■Q&A

第5章の最後の部分(P93~96)のQ&Aは以下のように、かなり興味深い内容です。
  • Q.1 距離を乗り込まなければならない?
  • Q.2 低強度が身体に効く?
  • Q.3 筋トレと持久トレーニングは一緒に実施すると効果がなくなるのではないか?
  • Q.4 スタンディングはしないほうがいいのか?
  • Q.5 パワーメーターを使ってポジションの最適化ができるのか?

■「メニュー」の各自のニーズに合わせた組み合わせ方

第6章では、メニューを「自分のLTパワー値」のレベルや「目標とするレース」に合わせてどのように組み合わせるかの枠組みが示されています。

P100では、100kmまでのロードレースやトライアスロンなどのような各競技や年代の選手が、だいたいどのようなLTパワー[W/kg] に分布しているかのイメージ図が示されています(例:100km以上のロードレースに出場する選手であれば、「最も多いのは4.2~4.7[W/kg]までの範囲」などといったことが、具体的に紹介されています)。

■トレーニングの構成の例:レースコース特有のトレーニングの紹介も

第7章では、「目標レース別」「月単位」「週単位」のトレーニング構成例が、具体的に示されています。
「週単位」では、「実業団選手・学連選手」「社会人・学生」「高校生(ジュニア)」の3種類に分けて、各曜日の練習時間や取り組むメニュー例が紹介されています。

またP122では、「レースコース特有のトレーニングについて」紹介されており、「群馬CSC」「日本CSC」「広島CSC」「ジャパンカップ」といったコースで必要なパワーパターンの概略図が[W/kg]で示されています。

 

注意点

注意点としては、パワートレーニングの教本ですので、本書を十二分に活用するにはパワー・メーターを持っていることが前提になります。
また『パワー・トレーニング・バイブル(原題:TRAINING AND RACING WITH A Power Meter)』で紹介されているアンドリュー・コーガン博士のアプローチとは一線を画した内容です。


日本人著者による初めての本格的なパワートレーニングの教本。良書です。おすすめです。