空気抵抗を減らす鍵は「上腕」

【空力・エアロダイナミクス・TT・下り】2011年12月31日 08:20

ロード・バイクで走行中の空気抵抗の70%はライダーによるものと以前紹介した。それでは70%のうち体のどの部分が特に空気抵抗が大きいのだろうか?

■上腕の空気抵抗はかなり大きい

テキサスAM&M風洞トンネルのオラン・ニックス所長は以下のように述べている。
「サイクリストの上腕の空気抵抗は体の他の部分の前面面積の空気抵抗とほぼ近い」

この原因は、ひじが広く開いていると上腕が作り出す空気の乱れによってエネルギーが失わてしまうことによるものと考えられる。

■肘を内側に入れ、腕を前方に伸ばすことで空気抵抗を削減できる

実際に風洞トンネルを使った実験では、ひじを内側に入れれば入れるほど空気抵抗が減少するとの結果が出ている。これは肘を内側に入れると空気は体の周りを滑らかに流れるようになるからで、いわば「体が腕のスリップ・ストリームの中に入り、ドラフティング効果を得られるから」といえる。

また腕を極力前方に伸ばした方が、上腕の断面が円(乱流が起きやすい)から楕円(乱流が起きにくい)に変わるので空気抵抗を削減できる。

■空気抵抗削減幅が25%にもおよぶ「ダウンヒルポジション」と「エアロバーポジション」

エアロバーを握っての走行やダウンヒルポジションはまさに上腕が起こす乱流を少なくするためのポジションだが、実際にこのポジションを取ってみるとはっきりとわかるほど走行速度が上がる。以下は『ロードバイクの科学』で紹介されているライディング・ポジション別の空気抵抗例だが、ダウンヒルポジションとエアロバーポジションの空気抵抗削減幅は25%にもおよぶ。

■ライディング・ポジション別の空気抵抗例

ライディング・ポジション
空気抵抗
立ち漕ぎ 138%
ハンドル中央を握る 110%
ブラケットポジション 100%
下ハン(腕を伸ばして) 98%
下ハン(腕を曲げる) 92%
下ハン(バーの前を持つ) 80%
ダウンヒルポジション 75%
エアロバー 75%

出展:ふじいのりあき著・『ロードバイクの科学』・P25・スキージャーナル株式会社

■上腕の空気抵抗を極限まで削減した「オブリー・スタイル」と「スーパーマン・スタイル」

この上腕の空気抵抗を極限まで削減したポジションの代表例が、過去2度アワー・レコードを更新したグレアム・オブリーが生み出した、腕を胸の下に折りたたんだ「オブリー・スタイル(YouTube動画上)」と手を前に突きだした「スーパーマン・スタイル(YouTube動画下)」だ。いずれも「自転車の操舵性が悪く危険」という理由で、現在はUCIで禁止されているが、空気抵抗削減のためのポジションを突き詰めるとこのような形になるという見本として参考になる。

【Graeme Obree World Hour Record 1993(オブリー・スタイル)】
【Chris Boardman- world record individual pursuit(スーパーマン・スタイル) 】

■下ハンのバーの前を持つポジション

ロード・レースで実際に使うとすれば「下ハンのバーの前を持つ」ポジションが主になるかと思うが、この姿勢で長時間走れるようになるまではかなり時間がかかる。しかし来期に向けて独走力に磨きをかけたいのであれば、じっくり時間をかけてでも習得する価値はあるだろう。

 

関連情報

参考URL

参考文献

  • Edmund R. Burke, PhD著・『SERIOUS CYCLING Second Edition』・P250・HUMAN KINETICS
  • ふじいのりあき著・『ロードバイクの科学』・P23~25・スキージャーナル株式会社