エコノミー改善の研究事例

【ペダリング・ポジション・スキル】【空力・エアロダイナミクス・TT・下り】2012年7月26日 07:00

エコノミーは、VO2maxやLTといったことにくらべるとスポーツ科学の分野ではまだあまり研究が進んでいない分野といえる。短時間のレースではエコノミーが多少劣っていてもレース結果にはほとんど影響しないが、レース時間が長くなればなるほど、エコノミーの優劣がレース結果に大きく影響すると考えられる。今回は、ジョー・フリール氏のブログより、エコノミーの改善に関する研究事例などを紹介する。

 

エコノミーとは

■「エコノミーのよさ」は「燃費のよさ」

エコノミーが優れているというのは「ある一定の最大下のスピードを維持する時の酸素消費量が少なくてすむ」ということで、噛み砕いていうならば「燃費がよい」といえる。エコノミーに影響する要素はさまざまなものがあるが、大きく分けると「先天的な素質によるもの」と「練習で高めることができるもの」の2つがある。

■エコノミーに関連する先天的な素質

先天的な素質には、大腿骨の長さ(長いほうがペダリング時のエコノミーはよい)や速筋と遅筋の比率(遅筋の比率が高いほうがエコノミーはよい)といったものがある。

■練習で高めることができるエコノミー関連スキル

練習で高めることができるものには、ペダリング・スキル(スムーズにトルクをペダルに伝えるほうがエコノミーがよい)や高ケイデンスを維持できる回転力(重いギアを踏むよりも高めのケイデンスで走るライダーのほうがエコノミーがよい)といったことが挙げられる。また空力に優れたライディング・ポジションを維持できるかも大きく影響する。

 

エコノミー改善についての研究事例

■科学的に証明されていない点は注意が必要

それではエコノミー改善の研究事例にはどのようなものがあるのだろうか。

ジョー氏のブログでは、ランニングに関して以下の5つの研究事例が紹介されている。サイクリングにおける研究事例ではないものの、何らかの参考になる点があるかも知れない。

注意点としては、エコノミーについてはまだ研究事例が多くなく、科学的に証明された段階でない点だ。以下での事例についても、まったく逆の結論になっている研究結果が多数ある場合もある。その意味では、研究結果を鵜呑みにするのではなく、「あくまで参考程度にとどめ、自分のトレーニングに取り入れられそうなことは試してみる」といったスタンスのほうがよいだろう。

■インターバル・トレーニング

8人のランナーが、週1回・VO2max(vVO2max*)の速さで3分間走行するインターバル・トレーニングに取り組んだところ、VO2maxには目立った変化がなかったものの、エコノミーは平均6%改善した。

*vVO2maxは、6分間維持できる最高のペース(6分間でオールアウトするペースで走った時の最高速度)のこと

[Billat VL, Flechet B, Petit B, Muriaux G, Koralsztein JP. 1999. Interval training at VO2max: effects on aerobic performance and overtraining markers. Med Sci Sports Exerc, 31(1):156-63.]

■重いウェイトを使ったウェイトリフティング

トライアスリートのグループが、週2回・14週間にわたって通常の持久走(ランニング)に重いウェイトを使ったウェイトリフティングを組合せたところ、ランニングのエコノミーが改善した(ただし「ウェイトリフティングに効果はない」という結論の研究結果も多数あるので注意が必要)。

[Millet GP, Jaouen B, Borrani F, Candau R. 2002. Effects of concurrent endurance and strength training on running economy and .VO(2) kinetics. Med Sci Sports Exerc, Aug;34(8):1351-9.]

■ヒル・トレーニング

ヒル・トレーニングについての研究はなぜか少ないものの、ほとんどランナーは効果があるとの認識で一致しているようだ。未発表の研究では、11人のマラソン・ランナーが、ヒル・トレーニングを週2回・12週間にわたって行ったところ、ランニング・エコノミーが3%改善した。この研究ではマラソン・ランナーは、400mの坂を意識的に上下の動きを加えて「跳ねる」ようにして駆け上がった。これはプライオメトリック・トレーニングに近いものだった。

[Sjodin B and Svedenhag J. 1992. "Endurance Conditioning," in Endurance in Sport, RJ Shepherd and PO Astrand editors. Oxford: Blackwell Scientific Publications.]

■プライオメトリック・トレーニング

10人のランナーが、9週間にわたってプライオメトリック・トレーニングに取り組んだところ、5㎞ペースにおけるエコノミーが平均8%改善した。この時VO2maxに変化はなかった。

[Paavolainen L, Hakkinen K, Hamalainen I, Nummela A, Rusko H. 1999. Explosive-strength training improves 5-km running time by improving running economy and muscle power.J Appl Physiol, 86(5):1527-33.]

17人の男性ランナーが、6週間にわたってプライオメトリック・トレーニングを行ったところ、エコノミーが改善し、3㎞のタイムが2.7%改善した。この時、VO2maxやLTに変化はなかった。

[Spurrs RW, Murphy AJ, Watsford ML. 2003. The effect of plyometric training on distance running performance. Eur J Appl Physiol, 89(1):1-7.]

■テーパリング

8人のランナーが、7日間にわたって、運動強度を高く保ったまま練習量を減らしたところ、エコノミーが6%改善し、5㎞のタイムが3%改善した。これは、レース前に、ピーク調整の一環としてテーパリングを行ったほうがよいことを示す一例といる。

[Houmard JA, Scott BK, Justice CL, Chenier TC. 1994. The effects of taper on performance in distance runners. Med Sci Sports Exerc, 26(5):624-31.]

 

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