パワー・トレーニング・バイブル【立ち読み版】vol.2 ANT+がもたらしたもの

【立ち読み版】2011年8月2日 12:16

■ANT+とは

過去数年にわたり, 無線技術の進歩がパワー・メーターに大きな影響を与えました。2006年末に, カナダのダイナ・ストリーム(DynaStream)という会社がガーミン社(Garmin)に買収されました。この会社は, パワー・メーターのサイクル・コンピューターが他のパワー計測機とも交信できる「共通言語」を開発していました。これは超低電力の無線通信規格で「ANT+」と呼ばれ, これがサイクリング界に多大な恩恵をもたらしたのです。

■ANT+の恩恵:パワー計測機とサイクル・コンピューターの自由な組み合わせが可能に

では何がそれほどまでに価値があったのかというと, その答えは「互換性」です。ANT+の技術は, 本質的にパワー計測機(パワー・データの計測・送信機)とサイクル・コンピューター(パワー・データの受信・記録機)を切り離すものでした。これによりサイクリストは, 異なったメーカーのデバイスを組み合わせ使うことができるようになったのです。いいかえれば, サイクリストはパワー・メーターのパワー・データの計測機の製造業者が作ったサイクル・コンピューター(パワー・データの受信・表示機)を使う必要がなくなったのです。

■サイクル・コンピューターとパワー・メーターの組み合わせ例

例えば[ANT+SRM]のクランクは[ANT+ガーミン705]のサイクル・コンピューターと通信が可能です。また[ANT+パワータップ]は[ANT+iAero]のサイクル・コンピューターと通信が可能です。[ANT+メトリ・ギア・ヴェクター]のペダルは[パワータップ]のサイクル・コンピューターである[ジュール]と通信が可能です。この章で紹介するパワー・メーターは2つを除いてANT+で通信可能です。これはパワー・メーターを購入する際に考慮に入れたほうがよい点です。現在ではたいていの場合, 自分が欲しい機能の搭載されているサイクル・コンピューターが手持ちのパワー・メーターと同じメーカーかを心配せず自由に選択できます。つまりANT+によって, ユーザーは計測機と受信機の理想の組み合わせを選べるようになったのです。

■ANT+のマイナス面:送受信されるデータの種類や量が限定される

ANT+のマイナス面は,通信規格に制約があり, 送受信されるデータの種類や量が限定されてしまう点です。ANT対応のサイクル・コンピューターが受信できるデータは, 実際に限定されています。例えば, 将来パワー・メーターの計測機が足の回内運動(足を内側にひねる運動)や回外運動(足を外側にひねる運動)の数値(これらは, サイクリストがペダルの上に足の内側と外側のどちらから力をかけたかを表します)を測定できるようになったとしても, 現行のANT+ 通信規格では, このひじょうに興味深いデータを受信できません。
ANT+ の機能が拡張され, これらの新しいデータの受け皿ができるか新しい受信機が開発され, すべての生データ(加工されていないデータ)を受信できるようになるかしなければ, ANT+ が今後の製品開発の妨げになってしまうでしょう。

 

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