ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト【立ち読み版】vol.79 コラム:乳酸

【立ち読み版】2013年6月13日 06:30

コラム:乳酸

■乳酸の老廃物から副産物への格上げ

乳酸は、糖質代謝の副産物として分泌されます。近年まで、乳酸は副産物ではなく老廃物であり、私たちのパフォーマンスを妨げ、運動を停止させるものだと信じられていました。

■乳酸は燃料やエネルギー源

しかし、研究によってそれが誤りだとわかり、乳酸の地位は老廃物から副産物に格上げされました。乳酸は、かつて考えられていたような「犯人」でなく、実は燃料やエネルギーの源であることが明らかになったのです。

心臓は乳酸を直接的な燃料にできます。乳酸は運動中の筋肉のためのエネルギー源として再変換できます。

■「脚が焼けつくような感覚」の原因は水素イオンだと考えられている

また、高強度の厳しい運動中(アシドーシスと呼ばれる状態)に脚に感じる焼けつくような感覚には、別の原因があるとも考えられています。現在、その犯人だと思われているのは水素イオンで、乳酸が何年もの間浴びていたものと同じ非難を浴びています。

■血中乳酸濃度の測定の有効性

ただし水素イオンは乳酸とともに産出されるため、血中乳酸濃度の測定は、閾値と、各エネルギー系の貢献度合いを判断するための効果的な方法です。

■閾値:血中乳酸濃度が上昇し始める地点

1つの閾値は、乳酸(および、おそらく水素イオン)濃度が、身体が処理できるより速く上昇し始める地点です。運動強度が高まり、身体がエネルギーの要求に応えるために多くの糖質を使おうとするにつれ、多くの乳酸が血中に放出されます。

■乳酸の蓄積と乳酸を体内に効率よく循環させることができる能力の関係

研究によって、乳酸の蓄積は、糖質の燃焼が増えることだけではなく、乳酸を体内に効率よく循環できる能力が不足していることとも関連していることが示唆されています。

■乳酸の移動先でのリサイクル

有酸素系は、運動中の筋肉から乳酸を移動させ、移動先で糖質のエネルギー源に再合成(リサイクル)し、有用な燃料として筋肉内に再び取り込めるようにします。このプロセスの一部は、筋肉内で行なわれます。

■乳酸は一種の糖質

乳酸は、実際には一種の糖質です。血液乳酸濃度の上昇は、多くの乳酸が産出されているというよりも、むしろ体がピルビン酸塩と呼ばれる代謝副産物を処理できないことを示唆するとも考えられます。

■乳酸は脚が焼けつく感覚を減らす役割を果たしているという指摘

一部の研究は、乳酸はアシドーシス(脚に感じる焼けつくような感覚)を減らす役割を果たしていることを指摘しています。つまり、血液乳酸レベルはトレーニングゾーンの判定に役立つものとして使われ続けるかもしれませんが、それは乳酸が悪者であることを意味しないのです。

■代謝の活動、動員される筋線維種類との関係

血中乳酸濃度の上昇は、代謝の活動、およびどの種類の筋繊維を動員するかと関係があります。このため、血中乳酸濃度は依然としてエネルギー系の働きを知る有効な手がかりといえるのです。

 

※この記事は、『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』児島修訳・OVERLANDER株式会社(原題:『BASE BUILDING for CYCLISTS』トーマス・チャップル著・velopress)の立ち読み版です。『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』は、『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』を下敷きにした、1年のなかでも最も重要でありながら、最も理解されにくい時期でもある「基礎期(ベーストレーニング期)」に、どのようにトレーニングすべきかを詳しく掘り下げた好著です。■