Durability(耐久力・デュラビリティ)についての研究事例 ~終盤の勝負どころでタレない脚を作り上げるために~
長時間のロードレースやエンデューロイベントにおいて、序盤から中盤にかけては余裕を持って走行できていたにもかかわらず、終盤の勝負どころで急激に失速してしまう選手と、最後まで出力を維持できる選手がいる。これらの選手のFTPやVO2maxといった指標が同レベルであったとしても、レース後半におけるパフォーマンスには大きな差が生じるケースもある。近年、スポーツ科学の分野において、この現象を説明するための概念として「Durability(耐久力・デュラビリティ)」が注目され、研究が進められている。本記事では、Durability(耐久力・デュラビリティ)の定義、既存の指標との関係、そして実戦的な測定および強化手法についての現段階での知見を紹介する。
■デュラビリティとは
デュラビリティとは、簡潔に言えば「長時間の運動により疲労が蓄積した状態においても、本来のパフォーマンスを維持する能力」である。自動車に例えるならば、VO2maxやFTPがエンジンの最高出力や巡航性能を示すのに対し、デュラビリティは、長距離走行によってエンジンが熱を持ち燃料が減少した状態でも、カタログスペック通りの出力を発揮し続ける「耐久力」や「へたりにくさ」に相当する。
実際のロードレースにおける勝敗は、フレッシュな状態での最大値ではなく、疲労困憊した局面における「残存能力」によって決まることが多い。既存の研究論文においても、疲労によって選手が発揮できる能力値は静的なものではなく、時間の経過とともに変動(低下)していくものであるとの指摘がある。
■アマチュアでの研究事例ではFTPやVO2maxとは別物
デュラビリティが既存の指標といかに関係しているか、あるいは独立しているかについては、Barsumyanらによる研究が示唆に富む結果を提示している。十分にトレーニングを積んだアマチュア男性サイクリスト20名を対象に行われた実験では、フレッシュな状態と疲労した状態のそれぞれでパフォーマンステストが実施された。
実験手順としては、まず疲労のないフレッシュな状態で5分間および20分間の全力走を行い、別の日には「疲労を誘発する運動」を行った直後に同様のテストを実施した。この際、疲労を誘発するための運動量(仕事量)は1000kJ(キロジュール)に設定された。これは体重70kgの選手でおおよそ14kJ/kgに相当し、現実的なレース負荷を模したものといえる。
結果として、1000kJの運動後には、20分間の平均パワーで約10%、5分間の平均パワーで約11%の低下が確認された。ここで注意すべきは、デュラビリティが高い(出力低下率が低い)選手と、VO2maxやFTPが高い選手との間に、明確な相関関係が見られなかった点である。すなわち、少なくともこのアマチュア集団を対象とした研究においては、フレッシュな状態で測定したいわゆる「いつもの強さ」だけでは、レース終盤のパフォーマンスを説明しきれないという結果となった。
■プロとアマチュアの違い
一方で、すべての研究においてデュラビリティが完全に独立した指標であると結論付けられているわけではない。Spraggらがプロ選手を対象に行った研究では、実験室で測定された生理学的指標とデュラビリティとの間に関連性が認められたという報告がある。この相違は、対象がプロかアマチュアかという点に加え、実験手順の違いに起因する可能性がある。
現状の科学的コンセンサスとしては、デュラビリティは単一の要素ではなく、代謝、神経、筋機能などが複合的に絡み合う能力であり、測定プロトコルの標準化は途上段階にあるといえよう。
■デュラビリティを構成する要素
デュラビリティの正体については、複数の生理学的要因が関与して総合的に現れていると推測されている。現時点で有力と考えられている主要な要素は以下の3点だ。
第一に、「燃料供給の持続性(糖=グリコーゲン管理の適切性)」である。長時間の運動において脚が売り切れてしまう主な原因は、筋グリコーゲンの枯渇である。研究において被験者の炭水化物摂取条件を厳密にコントロールするのは、エネルギー補給の巧拙がデュラビリティの測定値に直結するためである。近年の総説においても、適切な炭水化物摂取がパフォーマンス維持の前提条件であることが強調されている。
第二に、「運動効率(経済性・エコノミー)」である。同じ出力を発揮する場合でも、ペダリングスキルや筋動員パターンが洗練されている選手はエネルギー消費が少なく、結果として疲労の蓄積が遅くなる。この効率の良さが、終盤までの余力温存に寄与すると考えられる。
第三に、「疲労の発生メカニズム」である。運動強度が上がるにつれ、呼吸循環器系だけでなく、筋収縮機能や神経系への負荷が増大する。中枢および末梢のどこで疲労が生じているかが、耐久性の個人差に影響を及ぼしている可能性がある。
■遺伝的要因とトレーニングの可能性──才能か、それとも努力か
「タレにくさは生まれつきの資質であり、鍛えるのは難しいのではないか」という指摘もある。実際、持久系エリートアスリートを対象としたメタ分析では、特定の遺伝的傾向が平均として確認されており、遺伝的要因が関与していることは否定できない。
しかし、単一の遺伝子のみで競技力やデュラビリティの全容を予測できるほど単純なメカニズムではないことも示されている。能力の上限や伸びやすさに個人差は存在するものの、適切な測定とトレーニング設計によって、デュラビリティを改善できる可能性は残されているといえよう。
■実践的な測定と強化策──「疲労状態で質を保つ」アプローチ
自身のデュラビリティを把握し、向上させるためには、現実的なアプローチが必要となる。評価に関しては、「3000kJ消費後の全力走」といった過酷なテストを必須とする必要はないかもしれない。前述のBarsumyanらの研究が示す通り、アマチュアサイクリストの場合は1000kJ(約14kJ/kg)程度の疲労負荷であっても、選手間の能力差は十分に顕在化するからだ。
ただし、テスト実施に際しては、室温や機材の校正、補給内容といった条件を揃えることが不可欠となる。また、高負荷なテストであるため、頻繁な実施や体調不良時の実施は避けるべきといえよう。主観的運動強度(RPE)を活用し、「普段よりもきつく感じるか」をモニタリングすることも有効な運用手段となるだろう。
トレーニングによる強化については、「疲労した状態で質を保つ」という原則に基づいてメニューを設計することが推奨される。具体的には、ロングライドの後半に数分間のレース強度走(高強度)を組み込む、あるいは、連日のトレーニングによって前日の疲労が残った状態で高強度で追い込むといった方法が考えられる。
また、トレーニング中の補給も極めて重要である。適切な糖質補給を行うことで、練習の終盤においても質の高い出力を維持することが可能となる。デュラビリティは不明な点も残る分野だが、再現性のある「終盤の強さ」を構築するためには、その他能力のトレーニング同様に、段階的に負荷を上げていく姿勢が重要になるだろう。
参照URL
https://doi.org/10.1186/s13102-025-01238-8
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33886100/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33731651/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35977108/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27031742/
https://doi.org/10.1007/s40279-022-01757-1
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35839336/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7154893/
