「トレーニング×生活」の総負荷を管理してオーバートレーニング症候群(OTS)を回避する方法 ~OTS予防戦略ガイド~
オーバートレーニング症候群(OTS)は診断が難しく、現段階では単一で判定可能な決定的な指標がない。よって予防策を講じるのが最善といえる。重要なのはトレーニング負荷だけでなく、「トレーニング×生活」の総負荷をどう管理するかである。仕事や家庭、移動、睡眠不足といった非トレーニング要因まで含めて設計することが望ましい。
■TSS・TSB、RHR、主観
TSS・TSBはトレーニング負荷の見える化(数値化)として有効だが、TSBの数値を過度に重要視することは望ましくない。理由は、FTP設定や強度分布にバイアスがあれば数値にゆがみが出る可能性があるためだ。安静時心拍(RHR)と主観(主観的ウェルネス・チェック)は過負荷の早期サインとして実用性が高い。主観は、Hooper式の4項目(睡眠の質・疲労・筋肉痛・ストレス)を1~7で評価し、必要なら活力度(Vigor)を加えて記録する。主観の判定は、7日移動平均と最小有益変化(SWC)を基準とし、平常範囲を外れた場合に注意喚起と捉える。
■HRV
毎朝同条件でHRVを測定し、同時に睡眠の質・疲労・筋肉痛・ストレス・活力といった主観をスコア化する。両方が悪化した日は強度を下げるか休養日にすることが望ましい。判断は単発値ではなくトレンドで行う。
■栄養・食生活
慢性疲労の背景には、LEA(低エネルギー利用:運動消費エネルギー量に対して、食事からのエネルギー摂取量が不足している状態)や鉄不足が多い。疑わしい場合は、食生活の改善に取り組む。ロングライドでは30~60 g/h(2.5時間超なら~90 g/h)の炭水化物補給を目安とすることが推奨されている(ただし個人差や消化吸収能によって適正量は変動する)。
■睡眠
レース週は、睡眠貯金と就寝時刻の固定がレースでの高いパフォーマンスを目指す上で重要になる。レース後は完全休養もしくは軽いアクティブレスト+早寝を徹底し、20~30分の昼寝を取り入れ回復促進に努める。
■週単位で波をつくる──TSSとモノトニー/ストレイン
週次のTSS合計を基盤にし、モノトニー(単調さ)とストレイン(負担)で可視化する。競技レベルにもよるが、高強度は週2~3回までとし、翌日は徹底的にイージーとする。
■レース政策の見直し
Aレースの数は絞り込み、BやCレースは練習として割り切る。レース週は総負荷を下げ、翌日から週明けにかけての生活負荷(移動・睡眠不足・長時間座位)まで含めて調整することが望ましい。
■注意点
- 実際にオーバートレーニング症候群に陥ることは稀で、実際にはNFOR(非機能的オーバーリーチ)やLEA、鉄不足であることが多い。
- 総コレステロールやクレアチンキナーゼといった血液検査における指標で、オーバートレーニング症候群を確定診断することはできない。現時点では、オーバートレーニング症候群を確定的に診断できる単一の指標は確認されていない。複数の主観的・客観的指標を組み合わせることが推奨されている。
- 高い慢性負荷に慣れた選手(漸進的に慢性負荷へ適応した選手)ほど故障が少ないとの指摘がある。危険なのは急激な負荷増加である。
■週間の運用フロー
- 週単位:TSSで総量管理し、CTLは緩やかな上昇を目指す。
- 日単位:主観+RHR+HRVを組み合わせてモニタリングし、トレーニングの「実施/中止/軽減」を判断する。
上記のような各種手法を組み合わせ、日常的に実行しやすい仕組みを整えることが、オーバートレーニング症候群の予防策として有効だと考えられる。
参照URL
TrainingPeaks・『5 Ways Age-Group Athletes Can Prevent Overtraining』・https://www.trainingpeaks.com/blog/5-ways-age-group-athletes-can-prevent-overtraining/
British Journal of Sports Medicine・『How to manage travel fatigue and jet lag in athletes? A systematic review of interventions』・https://bjsm.bmj.com/content/54/16/960