主観的運動強度(RPE, ボルグ・スケール)の活用方法

【期分け・練習計画】【速くなるためのヒント一覧】2011年11月21日 16:03

心拍数やパワーなどを練習の指標とすることで、トレーニングをより科学的・効率的に行えるようになってきた。しかし注意が必要なのは、数字にとらわれすぎると実際の体の感覚とズレが出て、悪くすると逆にパフォーマンスが落ちることもある点だ(特に男性選手ほど、数字を重視し体の感覚を軽視する傾向があるとの指摘があるので、注意したほうがよいだろう)。


「自分の感覚」に耳を澄ましてトレーニングすることのメリット

■心拍数トレーニングの落とし穴

例えば心拍数は体調・ストレス・睡眠不足・気温などによってかなり影響を受ける。つまり心拍数だけ見てトレーニングをしていると、心拍数が上がりやすい状況の時は、「心拍数的には十分な強度であるはず」なのに「実際は強度が足りていなかった」ということが起こってしまう。こういった失敗を手軽に防ぐ方法がある。それは「どの程度きついか」という「自分の感覚」を参考にすることだ(もちろんパワー・メーターを使って強度管理をする方法もかなり有効といえる)。

具体例をあげてみよう。LTレベルで20分走をしている時に、心拍数が上がっているのに「ややきつい」程度で「いつもよりだいぶ楽」なのであれば、実際の運動負荷は足りていない可能性が高い。心拍が高い原因が過労や睡眠不足であるならば、休養や睡眠を取った方がよいだろう。もし特に問題ないようであれば、心拍数はいつもより上がってももう少し追い込んだほうがよいかも知れない。

■パワー・トレーニングの落とし穴

同じようなことはパワー・トレーニングでも起こりえる。というのもFTPが向上したにも関わらず同じ負荷で練習し続け、結果的に低いレベルでトレーニングをしてしまうケースがあるからだ。

先ほどと同じような例でいえば、LTレベルで同じく20分走をしている時に、パワーはいつも通り280W出ているのに「ややきつい」程度で「いつもよりだいぶ楽」であれば、やはり負荷が足りていない可能性が高い。この場合は、FTPのテストを行い、FTPの向上に合わせてトレーニング・レベルを再設定したほうがよい。

■「自分の感覚」に耳を澄ますことでミスリード・リスクを減らせる

このように、数字だけでなく「どの程度きついか」という「自分の感覚」にも耳を澄ましてトレーニングしたほうが、数字だけに頼りすぎて練習をミスリードするリスクを減らすことができる。その結果、パフォーマンス向上につながることが多い。

■「自分の感覚」は「生理的反応」や「運動強度」をかなり正確に表している

この理由は、「どの程度きついか」という「自分の感覚」は、数字で表しきれない体内で起こっている生理的も反映しており、体に実際にかかっている負荷(運動強度)をかなり正確に表しているからだと考えられる。

■強豪選手には「自分の感覚」を大事にする選手が多い

強い選手の中にも「数字だけでなく自分の感覚も大事にする」という選手は多い。

ロード・レースで必要となる無酸素運動容量やVO2maxやLTといった高強度の運動能力を上げようと思うと、ふつうは体に強い負荷をかけなくてはいけない。つまり「かなりきつい」と身体が感じるような練習で追い込まないといけない。先ほどの例のように数字だけでは、その点をミスリードしてしまうリスクがあるので、自分が十分「きつい」と感じているかどうかでもチェックすることが大事になるという理屈だ。

強い選手は、これまでの豊富な練習経験から「強くなるのに十分だけ追い込めたのか?」を感覚的に判断できるようになっている可能性が高い。

■「感覚がずれた時」に役立つ「数字(心拍数やパワー)」

ただし、感覚も時にはズレることがある。その時役に立つのが心拍数やパワーという数字だ。感覚的にはきつくても強度的には足りていなければ、「もっと追い込まないといけない」と判断できる。逆に、出ているパワーがかなり低いのに「ひじょうにきつい」のであれば、オーバーワークの可能性もあるので、むしろ練習を中止した方がよいかも知れない。

■科学的トレーニングの普及で重要性が増した「自分の感覚」

こういった意味で、心拍数やパワーといった科学的なトレーニング方法が普及してきたからこそ、「自分の感覚」といったアナログな手法の重要性が逆に増したともいえる。


主観的運動強度(RPE)・通称『ボルグ・スケール』

■「どの程度きつかったか」を記録しておくと後で役立つ

この「どの程度きつかったかという感覚」を練習やレースの都度記録しておくと後で振り返る時に役に立つので、多くの有名コーチが推奨している。

記録をつける時に便利なのが、グンナー・ボルグ氏によって考案された「主観的運動強度(RPE)」(通称『ボルグ・スケール』)だ。これは「運動強度がどの程度きつく感じたか」を数字で表す指標で、以下のような区分けになっている(10段階と20段階の区分けがあるが、ここでは10段階を紹介・各段階に対応する練習強度やVO2maxに対する比率はあくまで目安)。

■ボルグ・スケール(Borg scale)

     
段階 説明 練習強度 VO2maxに対する比率
0なにも感じない
0.5ひじょうに楽である40%
1かなり楽である 
2楽である50%
3ほどほど 
4ややきつい耐久走60%
5きつい耐久走 
6かなりきついテンポ走70%
7かなりきついLT走 
8ひじょうにきついLT走・峠・TT80%
9ひじょうにきつい峠・TT 
10ひじょうにきついVO2maxインターバル90%
最大限全力スプリント100%

  

参照URL

参考情報

  • 東京某研究施設・運動能力試験指導員(談)・施設名・氏名は非開示

参考文献

  • ハンター・アレン アンドリュー・コーガン博士共著・『パワー・トレーニング・バイブル』・P80・OVERLANDER株式会社
  • Chris Carmichael AND Jim Rutberg共著・『The Time-Crunched Cyclist』・P81~83・Velopress
  • 『funride』2009年11月号・P41・株式会社ランナーズ