LSDの方法・効果・注意点の整理

【FTP・LT・VO2max】【LSD】【冬のトレーニング】2011年11月7日 15:23

LSDは、有酸素運動能力の向上に広範で高い効果をもたらす練習方法のひとつだが、初心者と選手レベルではやり方や効果が異なり、また練習目的によっても多少やり方が変わる。効果が広範多岐にわたるLSDの方法論・効果・注意点について以下に整理した。

 

方法

■持続時間

  • 初心者:最低30分※
    ※インスリン感受性の測定データを根拠にすると30分以上でLSDの効果が出て、3日間持続する
  • 選手レベル
    • 最低2時間(乗る時間が長ければ長いほど効果が高い)
    • 日本のプロはシーズン初期に1時間から始め、最終的に8時間まで伸ばす
    • 確実に効果を出すためには1回で6~8時間程度乗ることが望ましい→根拠(相談室)
    • イタリアのプロは最低80㎞・最長250㎞乗る
    • ジョー・フリール氏は著書のサイクリスト・トレーニング・バイブルの中で、「一回の練習の最長時間は、シーズンの最長レースと同じ、または2時間(のどちらか長い方)とします」と述べている(目標とするレースが短時間であれば、いたずらに長時間乗り込む必要はないとの指摘)

■頻度

  • シーズン初期
    • 毎日がベスト(少なくとも週3回)・その場合は最低30分以上
    • 週に数回程度であれば、最低1時間以上
    • イタリアのプロもシーズン初期にはこのレベルでしっかり乗り込む
  • レースシーズン
    • 高強度練の間に回復走やコンディション調整を目的として適宜行う
    • イタリアのプロはレースシーズン中、純然たるLSDは週に1回程度

■期間

  • シーズン初期
    • 最短3週間で効果が出始め、1ヶ月たつと目に見えて効果がでる(同じ心拍数での走行速度やパワーが向上する)
    • 練習頻度にもよるが、強度の高い練習を開始するまで6~8週間程度を確保するのが望ましい
  • シーズン全般
    • シーズンを通して、積極的回復やコンディション調整のために適宜行う

■強度

  • 心拍数±5~10拍は気にしないでOK
    • 初心者:(220-年齢)×60~65%=走行中に維持する心拍数
    • 選手レベル:(220-年齢)×60~75%=走行中に維持する心拍数

※末梢毛細血管の発達が目的の場合は、低めの心拍数100~110bpm(最大120bpm)の方がよいとの説がある(詳細後述)

※最大心拍数の60~70%(選手レベルは75%)まではLSD強度といえる

  • パワー
    • FTPの56~75%
  • その他指標
    • 最低でも30分以上楽に続けられる強度
    • 運動中に息苦しさを感じない強度(笑いながら会話できる強度)
    • 20段階の主観的運動強度(RPE)では、11(楽である)~12(ややきつい)のレベル
    • 運動中の血中乳酸濃度は2mmol/L以下が目安

■注意点

  • 長く一定のペースでゆっくり走る
  • 最初から最後まで同じ心拍数を保って走ることが大切(ペースを上げ下げしない)
    ※途中に定期的に15秒程度のダッシュを挟んだ方が効果が高いとの説もある
  • 途中で極力休憩を入れない方が効果が高い
  • 走った時間が重要であり、距離は問題ではない
  • ギアやケイデンスはいつも通りでよい(特に意識しなくてよい)

 

【効果】

全般的な効果としては、心肺機能とエネルギーの代謝効率がよくなり、ロードレーサーの基礎となる持久力が向上する(「身体の器」が大きくなる)。またレース中であれば、積極的休養による疲労回復・コンディション調整効果が期待できる。またゆっくりとした動作なので、レースシーズン中にできなかったフォームチェックなどにも向いている。

■LSDの効果が出ているかを確認する方法

LSDの効果が実際に出ているかは、以下の2つの方法で確認できる。

  • LSDの効果が出ているかを簡単にチェックする方法→リンク 
  • 有酸素持久力の基礎が十分にできたかを確認する方法→リンク

■LSDで期待できる効果

  • 主要効果
    • 持久力(スタミナ)向上
    • ハードな練習やレースに耐えられるベースを作ることができる
    • 疲労回復(コンディショニング)
    • 体脂肪の減少
    • 長時間走行における姿勢維持に必要な筋力の強化
    • ポジション(フォーム)やペダリング・スキルのチェックと改善
  • 運動生理学的効果
    • 心筋の発達と強化(1回拍出量<心臓が1泊あたりに送り出す血液量>が増加・いわば「心臓が大きくなる」)
    • 心臓血管系の向上
    • 体温調整機能の向上
    • 末梢毛細血管の発達(エネルギー供給がスムーズになる) ※1
    • 筋肉のミトコンドリア増大(エネルギー生産能力の改善)
    • ミオグロビンの増加(筋肉中にある酸素貯蔵のために用いられるタンパク質が増える)
    • 骨格筋の酸化能力の改善
    • エネルギー源としての脂肪利用割合が高まる※2
    • LT(乳酸閾値)の向上
    • グリコーゲン貯蔵量の増大 
    • 速筋繊維の遅筋化
    • 肺の活動の効率化 ※3
    • 神経系の適合による走行効率の向上

 

※1 高強度の運動中は、交感神経が働き末梢毛細血管が収縮してしまうので、圧力は高まるが毛細血管の先まで血液が回ら ない(末梢毛細血管の発達につながらない)。しかしLSDはリラックスして行う運動であり交感神経が活発に働かないので、末梢毛細血管に長時間繰り返し圧力をかけることができる。この結果、筋肉中の血液が流れている毛細血管が増加する。この毛細血管の増加と圧力の増大により、全身をめぐる血液量が増加しエネルギー供給がスムーズになるとの説がある(「LSDよりも高強度のトレーニングでも毛細血管は十分に発達する」との異論もある)。

※2 LSDを行うことで運動時のエネルギー源として脂肪を優先的に使う能力が高まるので、筋グリコーゲン枯渇までの時間が長くなる。

※3 呼吸の際には横隔膜を使うが、高強度の運動を行うと活性酸素が発生し横隔膜が疲労する(=呼吸効率が悪くなる)。 LSDを行うと、横隔膜の中に活性酸素を除去するSODという酵素が発生・活性化するので、横隔膜をより効率的に動かし続けられるようになる。結果的に肺の活動が効率的になり酸素を取り込み全身に送り届けるメカニズムが強化される。

 

【注意点】

  • レベルの高い選手ほど、効果が表れにくい(逆に初心者ほど効果がでやすい)。
  • LSDは強度が低いため、レースに必要な筋繊維の神経動員パターンの刺激にはならない。よってロードレースへの対応力を養うには必ず別途レース対策の高負荷トレーニングを行う必要がある。特に2分未満の運動(無酸素運動容量や神経筋パワー)にはLSDは直接的な効果がほとんどなく、むしろ持久力向上に伴いスピード(筋収縮速度)が低下する可能性がある。
  • LSDばかり行っていても、ある水準以上のパフォーマンスの向上は期待できない(LSDに高強度のトレーニングを加えることで、グリコ ーゲン利用効率が高まり、パワーやFTPなどの改善とともにパフォーマンスが向上する)。
  • ある程度レベルの高い選手で、練習時間が余りとれない場合は練習効果が低くなりがち(この場合は高強度トレーニ ングや筋トレを行った方が練習効率がよい)。
  • 運動遺伝学では、(LSDなどを含む)有酸素トレーニングに反応しやすい(反応速度が速い、改善幅が大きい等)選手とそうでない選手がいるとの研究結果がある(同様に無酸素トレーニング[スプリント・トレーニングなどの瞬発力トレーニングを含む]に反応しやすい選手とそうでない選手がいるとの研究結果がある)。「過去にLSDを含む有酸素トレーニング取り組んだものの、いまひとつ成果が上がらなかった。しかし、HIIT(高強度インターバル・トレーニング)ではすぐに成果が出た」という人であれば、冬でもLSDではなくタバタ・インターバルスプリント・インターバルなどを中心に取り組んだ方がよいかも知れない(万人に有効なトレーニング方法はないので、各自に適したトレーニング方法を選択する必要がある)。

 

【その他参考情報】

  CYCLING TIME.com 前編 後編
  LSDの行い方詳細と効果についての記事です。  

 

  「これはエエよォ」 リンク
  冬場のLSDについての記事です(ひじょうに役立つ内容です)。  

 

  LIVESTRONG MODERATELY.さん リンク1 リンク2
  1. LSDの原理・効果・行い方について詳しく説明されており参考になります。  
  2. LSDの効果や必要な練習量などについて説明されており参考になります。  

 

  クライマー系最強さん リンク
  LSD・LMD(Long Medium Distance)に関する考察があります。  

 

  IT技術者ロードバイク日記さん リンク1 リンク2
  1. LSD関連の論文紹介(LSDによるラットの毛細血管増加数のデータあり)と考察です。  
  2. ラットにおける持久性トレーニングの心筋・毛細血管への影響についてです。  

 

  Onyourmark リンク
  ベースとエンデュランス・ゾーンでの練習効果についてです。  

 

参考URL

参考文献

  • サイクリスト・トレーニング・バイブル ジョー・フリール著・児島修訳・『サイクリスト・トレーニング・バイブル』・P164・OVERLANDER株式会社
  • 浅井えり子著・『新・ゆっくり走れば速くなる』・P10~64・ランナーズ
  • 横浜市スポーツ医科学センター編・『図解スポーツトレーニングの基礎理論』・P172, 173・西東社
  • 小出義雄著・『マラソンは毎日走っても完走できない』・P107~109・角川SSC新書
  • 桜井智野風著・『ランニングのかがく』・P141~143・秀和システム
  • ハンター・アレン, アンドリュー・コーガン博士共著・『パワー・トレーニング・バイブル』・P79・P116~117・OVERLANDER株式会社
  • Adviser今中大介・『今中大介のロードバイクテクニック』・P49・枻出版社
  • 春に差が付くベースアップトレーニング・『funride』2009年11月号・P26~33
  • デイヴィッド・エプスタイン著・福典之監修・川又政治訳・『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?』・P127~128・早川書房