持久系アスリートのパフォーマンスに影響を与える4つの筋肉の構造的特性

【FTP・LT・VO2max】【期分け・練習計画】【速くなるためのヒント一覧】2025年7月19日 10:51

持久系アスリートにとって、トレーニング量と質・栄養管理・睡眠等が重要であることはよく知られている。しかし、それらを最大限に活かすための「土台」として、「筋肉の構造的特性」がパフォーマンスに及ぼす影響については、意外と見過ごされがちだ。近年の研究や現場での知見からは、筋線維のタイプや毛細血管の発達、さらには酸素運搬に関わる微細な構造が、持久力の限界を左右する決定因子となりうることが明らかになりつつある。本記事では、アスリートの「潜在能力」を理解するうえで重要となる4つの筋肉の構造的特性について整理し、それぞれの持久力パフォーマンスへの関連性について解説する。

 

■筋線維タイプ──ミオタイプが規定する持久力の基礎

筋肉は一様ではない。内部には「遅筋線維(Type I)」と「速筋線維(Type II)」が混在しており、その割合は人によって異なる。これが、いわゆる「ミオタイプ(myotype)」である。持久系アスリートの骨格筋は、その70~80%が遅筋線維で構成されるのが一般的である。一方、スプリンターにおいては、遅筋の割合は20~30%にとどまり、爆発的なパワー発揮に適した速筋線維が主体を占める。筋線維比率は先天的な要素が大きいとされているが、適切なトレーニングを積み重ねることで、遅筋線維の機能を高めることは可能である。

 

■筋線維サイズ──「大きさ」より「酸素効率」が鍵となる

一般に、速筋線維は遅筋線維よりも太く、大きい。しかし、その大きさは必ずしもパフォーマンス向上に直結しない。なぜなら、速筋は有酸素能力が相対的に低く、酸素供給やミトコンドリア活性の面で劣るからだ。一方、遅筋はサイズこそ小さいが、酸素を効率よく利用する能力に優れている。とりわけ、身体全体の酸素供給能力に制限がある中で、酸素効率に優れる小型の遅筋線維が多く存在することは、競技後半の粘り強さに大きく影響する。

 

■毛細血管ネットワーク──「酸素の鉄道網」が支える持久力

筋肉への酸素供給は、毛細血管を通じて行われる。すなわち、毛細血管の数が多いほど、より多くの酸素を筋線維に届けることが可能になる。特に遅筋線維には、毛細血管が密に分布しており、そのネットワークの発達度合いが、持久力の中核をなすクリティカルパワー(Critical Power, CP:FTPもしくはCP60に相当)との相関関係を持つことが示されている。毛細血管は、酸素を運ぶ「鉄道」のようなものといえ、線路の数が多ければ、それだけ輸送効率は上がる。実際、VO2maxが約63ml/kg/minという持久系アスリートの研究事例では、毛細血管の発達とCP(FTPもしくはCP60に相当)には明確な正の相関が認められた。

 

■ミオグロビン──筋内酸素輸送の「エスカレーター」

毛細血管が「鉄道」であれば、ミオグロビンはその終着駅である筋線維内に酸素を運ぶ「エスカレーター」のような存在だ。すなわち、外部から供給された酸素を、筋肉内部に効率よく引き込む役割を果たす。このミオグロビンの働きが適切でなければ、いくら毛細血管を通じて酸素が届けられても、肝心の筋線維内での酸素の取り込み効率が落ちてしまう。酸素の「供給(delivery)」と「抽出(extraction)」は、車両と駅構内の動線のように、両者が揃って初めて機能する。

 

■酸素供給と抽出──限界を打破するための二重構造

酸素供給の限界は、トレーニング状況によって変化する。持久系トレーニングによって筋肉の酸素需要が高まると、次第に「供給側の限界」に突き当たる。この段階においては、毛細血管の密度や心肺機能の強化が求められる。一方、VO2maxの値がすでに高いアスリートにとっては、「供給」だけでなく、「抽出」の効率も重要になる。すなわち、筋線維内で酸素をいかに速く、効率よく利用できるかが、さらなる高みへの鍵となる。この二重構造に着目することで、トレーニング計画はより精緻化することができる。たとえば、毛細血管の発達を促す低~中強度の有酸素系を鍛えるロングライドと、酸素抽出効率を高めるためのテンポ走やインターバルを併用することは、理にかなったアプローチといえる。

 

■トレーニングへの応用──ポラライズモデル

では、実際のトレーニングにおいて、こうした筋構造特性をどのように活かせばよいのだろうか。参考になるのが「ポラライズドモデル(polarized model)」の原理である。これは、トレーニングの強度を明確に分け、低強度と高強度を組み合わせて刺激することで、それぞれ異なる生理的効果を狙う手法である。有酸素運動能力の強化には、20分以上のテンポ走が有効である。一方、無酸素運動能力の強化の観点からは、1分オン/1分オフのインターバルを12~20セット行うといった、より短時間高強度の反復が推奨される。こうした設計によって、筋毛細血管やミオグロビンの適応を引き出すことが期待できる。

 

持久系競技におけるパフォーマンスを最大化するには、単に距離を乗り込むだけでは不十分といえる。筋線維のタイプやサイズ、毛細血管の発達度、ミオグロビンといった「筋肉の構造的特性」にも目配せし、それらをターゲットとしたトレーニングを設計・調整することが望ましい。パフォーマンスが停滞気味な場合には、自分の筋肉の4つの筋肉の構造的特性に注目することで、突破口を見いだすことが期待できるかもしれない。

 

参照URL

https://twitter.com/Gareth_Sandford/status/1445106386271047689