サイクリストとして知っておきたい、トレーニング日誌についての基礎知識 ~トレーニングを実りの多いものにするために記録したい「トレーニング情報」と「バイタルサイン(生体情報)」とは?~

【期分け・練習計画】【立ち読み版】2019年6月9日 00:15

 

トレーニングの内容は、記録しておく必要があります。また、トレーニングゾーン別に練習時間を記録し、トレーニング強度も測定しなければなりません。トレーニング日誌にこれらを記録することによって、トレーニングがいつ効果的で、いつ効果的でなかったかを判断できるようになります。これは、アスリートにとってきわめて貴重な財産になります。

トレーニングについて、あなたが原因不明の問題で悩んでいるとき、コーチが真っ先に確認しようとするのがトレーニング日誌です。正確なトレーニング情報についての記録がなければ、過去のトレーニング実績に基づいて改善を目指していくことが難しくなります。

前年のトレーニングの総時間数や総走行距離数がわからなければ、次のシーズンのベーストレーニングの負荷を増やしたくても基準がわからないため、推測しなければならなくなります。

日々の記録は、体がどのようにトレーニング負荷に耐えているかや、日常生活のストレスが及ぼす影響などの理解に役立ちます。長く記録し続けることで、自分にとって効果的なトレーニングと回復のパターンをつかみやすくなります。

日誌をつけていれば、疲労が大きく蓄積したり、病気になったりする前の数週間、どのようなトレーニングをして、日常生活でどのようなストレスを感じていたかを簡単に辿れます。トレーニング日誌は、その選手の限界がどこにあるかを探る上でも役立ちます。また、体力の著しい向上が見られた場合、その前の数週間を辿ることで、トレーニングと回復の適切なバランスを把握しやすくなります。

トレーニング日誌に記録することが望ましい情報は、大きく分けると「トレーニング情報」と「バイタルサイン(生体情報)」の2種類があります。それぞれについての具体的な項目としては、以下のようなものがあります。

 

トレーニング情報

  • 走行距離
  • 練習時間
  • 心拍数とパワー(平均および最大)
  • トレーニングゾーン別の練習時間<
  • 練習の感想、特記事項など

 

バイタルサイン(生体情報)

  • 安静時心拍数(起床時)
  • 体重(起床時)
  • モチベーション(起床時)
  • 筋肉痛(起床時)
  • 疲労度(起床時)
  • 疲労度(起床時)
  • 睡眠時間
  • 睡眠の質
  • 日常生活のストレス
  • 総合評価
  • 備考

 

これらは、所定の用紙やノートに記載するのもよいですが、近年では各種オンラインサービスやアプリがが普及しているので、そちらを利用するのもよいでしょう。

それでは各項目について、個別に説明していきましょう。

 

■走行距離と練習時間

トレーニング日誌には、走行距離と走行時間を記録します。また、これらを集計して、トレーニング負荷の総量を把握します。ウェイトトレーニングやクロストレーニングなどの、他のトレーニングも記録します。これらの項目はさらに細かいカテゴリーに分けて記録できますが、どれも省かないようにしてください。

 

■心拍数とパワーデータ

重要度が最も高い情報は、走行中に各トレーニングゾーンに費やした時間です。これは全体的なトレーニング負荷と、トレーニング目標の達成状況の把握に役立ちます。

レースやロングライドのあとには、平均パワーだけでなくNPも記録しておきましょう。そうすれば、体にかかった負荷をより正確に把握できます。

AeTでの走行では、各有酸素インターバルでの平均心拍数と平均パワーを記録すべきです。これにより、エコノミーが改善しているかどうかをチェックできます。また、その日にスプリントをしたなら、最大パワーを記録すべきです。

PMCによってコンディション管理を行っている場合は、TSS、CTL、ATL、TSBといった各種指標も記録しておきましょう。これらは、狙ったレースに向けたピーキングに役立ちます。

 

■練習の感想、特記事項など

「練習やレースの調子はどうだったか」「目標パワーを出せたか」「心拍数は練習中に通常通りの反応をしたか」「足の調子はよかったか、それとも20kgもの重たいチェーンのように感じたか」「天気は影響したか、十分にドリンクや補給食をとれたか」「誰と一緒に乗ったか、どのルートを走ったか」など、トレーニングに関する感想や特記事項を記録します。これらは、トレーニングの進捗や体力、回復の状態を把握・評価するうえでの貴重な情報源になります。

パワーテストからは価値ある情報が得られますが、それですべてを説明できるわけではありません。トレーニング日誌の記録を活用して、好調または不調の理由の理解につとめましょう。足の重さと疲れを感じながらトレーニングを続けているのならば、休養を増やすべきですし、毎日、絶好調だと感じているのなら、トレーニング負荷を少し増やせるかもしれません。

 

■安静時心拍数(起床時)

安静時心拍数は、朝目覚めたとき、横になった状態のままで測定します。この心拍数によって、疲労からの回復度と、体力の向上度をモニターできます。日々の変化を正確に測るために、毎日、同じ条件で測定します。自分で脈をとる場合は、秒針のある腕時計を使うと便利です。目覚まし時計の横に腕時計を用意しておき、目覚ましのアラームが鳴ったらスヌーズボタンを押して、腕時計を手に取ります(脈拍を数えている間に眠ってしまう場合もあるので、スヌーズボタンはオンにしたままにしておきましょう)。1分間ほど休んだ後で、2本の指をもう一方の腕の手首の上に置き、1分間、腕時計を見ながら脈を数えます。目覚まし時計のアラームが再び鳴り出すと、驚いて心拍数が上がることがあるので、その前に数え終えるようにします。

私の場合、風邪を引く1、2日前に起床時の安静時心拍数が高くなります。他の選手の記録からも、病気になるすぐ前に安静時心拍数が高くなるはっきりとしたパターンを見い出せます。また、朝の心拍数が高いのは、体内の水分不足を示唆している場合もあります。水分が不足していると、練習中にも心拍数が上昇します。これを防ぐために、こまめに体重計に乗り、水分不足のために体重が減っていると感じられたら、水分を補給しましょう。

睡眠不足や日常生活のストレスが原因で、安静時心拍数がいつもよりも若干高くなることもあります。薬の服用やカフェインも、心拍数に影響することがあります。

数か月にわたって心拍数が徐々に低くなっている場合は、1度の心拍数で多くの血液を送り出せるようになっていることを意味します。逆に、数日間のうちに心拍数に大きな変化があるときは、オーバーリーチングの状態にあり休養が必要な場合があります。

 

■体重(起床時)

毎朝、起床後にトイレを済ませた直後に体重計に乗ることで、体内の水分の状態を一貫した方法でモニターできます。24時間前に比べて1ポンド(約0.5kg)程度体重が減っていても、それは体脂肪ではなく、水分が減ったことを意味します。

体重が、1日で1~3ポンド(約0.5~1.4kg)程度、変動するのは自然なことです。毎日体重を測定することで、体重の変動パターンを把握し、それと自転車に乗っているときの感覚とを比較できます。心拍数がいつもより高く、体重も減っていない場合、心拍数上昇の原因が、水分不足ではないことがわかります。

 

■モチベーション(起床時)

起床時の気分を記録します。毎朝、モチベーション、体の痛み、睡眠、疲労などの要素を考慮して、1~5点(1が最高点)で採点します。すっきりと目覚め、雨降りの日でも自転車に乗りたくてたまらないと感じるのなら、1をつけます。目覚まし時計のスヌーズを何度も繰り返し、ようやく目を覚ますようなら、おそらく4か5でしょう。

モチベーションは、睡眠の質、就寝時間、仕事や日常生活のストレス、天候などにも影響を受けます。足の疲労度合いも関連します。トレーニング負荷が大きくなりすぎると、モチベーションが低下することがあります。毎日の気分を記録することは、その日にトレーニングすべきかどうかの判断に役立ちます。たとえば、よく眠れ、体重もいつもと同じであっても、安静時心拍数が高く、モチベーションも低ければ、休養日にすることを検討すべきです。

 

■筋肉痛(起床時)

トレーニングによって筋細胞が破壊されることで、筋肉痛になります。ハードな練習(特にウェイトトレーニング)をした後には、2日後に筋肉痛が増すことがあります。私は毎朝、階段を下りるときや、椅子から立ち上がるときの感触で、筋肉痛の程度を探るようにしています。また、筋肉を指先で押してみて、痛みを確かめることもできます。痛みを感じるのであれば、まだ筋肉は修復プロセスの最中です。

筋肉痛のレベルを3以上に評価した場合は、注意が必要です。トレーニングによって再び筋細胞を破壊する前に、足に回復のための時間を与えてあげましょう。

 

■疲労度(起床時)

トレーニング負荷が増えるにつれ、全般的な疲労レベルも上昇します。疲れや眠気を感じたり、頭をしゃきっとさせるために、いつもより多くコーヒーを飲まなければならないこともあるでしょう。トレーニング日誌に、これらの感覚を書きとどめます。

疲労は、日常生活のストレス、質のよい睡眠の不足、低い栄養価、病気などの、トレーニング以外のことによっても生じます。家のなかにいるときは疲れを感じなくても、自転車に乗ったときに足に疲労感があり、練習でも調子が出ないときは、トレーニング日誌にそれを書きとどめましょう。そのような日は練習を抑えめにし、ハードな練習は避けて、足が通常の感覚に戻るのを待ちましょう。

 

■睡眠時間

何時間眠ったかを記録します。睡眠時間の多寡が体調に及ぼすパターンを観察しましょう。夕方以降にハードな練習をすると、夜に寝付きにくくなることがあります。このパターンが当てはまる場合は、トレーニングスケジュールを調整すべきです。

 

■睡眠の質

ベッドのなかに10時間いたとしても、そのうち8時間は眠れずに寝返りを打っていたのなら、それは10時間眠ったということにはなりません。体は質の高い、ぐっすりとした睡眠を必要とします。熟睡できない状態が続くことがパターン化してしまっている場合は、睡眠の専門家に問い合わせてみましょう。ある条件によって睡眠の質が低くなることもありますが(睡眠時無呼吸症候群など)、質の低い睡眠それ自体も、疲労や回復、オーバートレーニングなどの原因になります。

 

■日常生活のストレス

日々の暮らしで体験していることは、体がトレーニング負荷に耐えられる能力に大きく影響しています。毎日、どの程度のストレスに対処しているかを記録しましょう。ストレスがトレーニングに及ぼす影響を把握しやすくなります。私が指導する選手の場合でも、数週間にわたって高いストレス下にあるときに、パワー出力が大きく低下する傾向があります。ストレスがトレーニングにもたらす影響を過小評価しないようにしましょう。

日常生活のストレスは、お金、仕事、家族などのさまざまな要因から生じます。ごく普通の暮らしのなかにも、ストレスは存在します。私の経験上、アスリートに最も大きな影響を与えるストレス要因は、引越、人間関係、お金です(順不同)。

こうした問題を抱えているときは、ストレスに十分注意し、必要に応じてトレーニング負荷を調整しましょう。

 

■総合評価

自分の状態を総合的に評価します。生活、トレーニング、天候などについて、その日1日、全体としてどのように感じたかを記録します。選手によっては、これは最も重要な主観的評価になります。この値は、現在のあなたの状態を物語ります。この総合評価の値を基準にして、他の主観的評価の項目を振り返り、何がそれに影響を与えているかを突きとめることができます。

総合評価が低く、睡眠の量や質に問題がある状態が続いているなら、睡眠面の改善に取り組みましょう。筋肉痛や疲労を強く感じているのなら、それらがその日の気分に影響を与えていることは十分に考えられます。総合評価が高く、安静時心拍数も低く、足の調子もよく、よく眠れているのなら、トレーニングと回復のバランスがうまくとれており、その週や次の週にトレーニング負荷を若干上げることができるでしょう。

 

■備考

トレーニングと回復に影響し得る、日々の出来事を記録します(例:仕事を解雇された、アレルギーが再発した、2,000ドルの大枚をはたいて買ったホイールのメーカーが同じ価格で軽量のバージョンを売り出した)。

こうした日常の出来事を記録することで、疲労、質の低い睡眠、モチベーションや回復力の低下などの原因が何かを把握しやすくなります。疲れがとれない原因が、トレーニング以外の要素である場合もあるのです。

もちろん、人生にはよい出来事も起こります。これらも記録しましょう。私の経験では、天気のよい日や、新しいバイクに乗り換えたときなどに、アスリートのモチベーションは上がります。充実した毎日を送ることで、意欲も高めやすくなります。ただし、誰もがこうした出来事に同じように影響されるわけではありません。自分にとって、何がどのように影響したかを記録しておきましょう。

 

前述したように、私は9つのバイタルサインの記録をおすすめします。他にもバイタルサインはありますが、この9つは最も重要なものです。9つのうち、値が「3」以上の項目が3つより多くなった場合は、ハードな練習は控え、完全なオフにするか、回復日として軽めの練習にすることを検討しましょう。逆に、「3」以上の項目が2つ3つあったとしても、その他の面では体調のよさを実感できているのなら、ハードな練習をしてもよいでしょう。ただし、異変を感じた場合は、すぐに練習を切り上げて、休養することを念頭に置いておくことが必要です。

たとえば、ある日のあなたは、起床時の安静時心拍数はやや高いが、体重はいつもと変わらなかったとします。足には痛みと疲労度を感じたため、「3」と評価しました。BT練習のために開始したウォーミングアップは、問題なく進行します。心拍数は通常よりやや低く、足に若干の堅さは感じますが、動作に支障をきたすほどではありません。RPE はパワーと一致しています。ウォーミングアップを終えて、最初のZ4でのインターバルを始めましたが、パワーと RPEのレベルまで心拍数が上がりません。さらにハードにペダルを踏みましたが、それでも心拍数は上がりません。これは、練習を切り上げるべきタイミングだといえます。練習中に心拍数が上がらないのは、多くの場合、疲労が蓄積し、オーバーリーチングの状態に達していることの兆候です。練習中に何らかの違和感があり、バイタルサインが休養を求める兆候を示しているのであれば、休養をとりましょう。

安静時心拍数がいつもより5bpm前後、高いか低く、体重がいつも通りなら、その日のトレーニングには十分な注意が必要です。安静時心拍数の変化をストレスや水分不足で説明できない場合、病気になりかけているか、オーバーリーチングの状態にあります。体調に疑わしさを感じたら、常に大事をとるようにしましょう。1日トレーニングを休んだからといって、シーズン全体には大きな影響はありません。病気で1、2週間の休養を余儀なくされてしまえば、大きな停滞になります。

 

練習がうまくいかないときは、非生産的な気持ちになりがちです。トレーニング日誌は、トレーニングが計画通りに進まないときに、その原因を明らかにし、問題点を改善していくうえで役立ちます。実際に行った練習内容や、トレーニングと回復の質に影響する可能性のある要因の記録がなければ、次に進むべき道の指針となる確かな情報を持たないまま、手探りで前進しなければならなくなります。

正確かつ詳細なトレーニング日誌は、トレーニングの有効性や体の反応、トレーニング以外の要素がもたらす影響などの理解に役立つ貴重な情報源となり、トレーニングがより実りの多いものになります。起床時の心拍数やモチベーション、睡眠の質などのバイタルサインを記録することは、アスリートの成功にとってきわめて重要なカギを握ります。これらの情報は、アスリートにとって生命線(バイタル)といえます。だからこそ、私は起床時の心拍数やモチベーション、睡眠をバイタルサインと呼んでいます。

 

 

  • 記事出典:トーマス・チャップル著・児島修訳・『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』(OVERLANDER株式会社)・P194~202の抜粋
    ※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。