サイクリストとして知っておきたい、パワートレーニングの構成要素の基礎知識 その1  頻度・時間・強度と負荷とは?

【わかる パワートレーニング!】【期分け・練習計画】【立ち読み版】2019年8月9日 00:15

トレーニングには、3つの要素があり、それが一緒になってトレーニングというものを規定します。その3つの要素とは、頻度、持続時間、強度です。これは、ツール・ド・フランスに出るようなプロであろうが、自転車に乗り始めたばかりの初心者であろうが、同じです。いつもの練習のなかで変えることができる要素、というにすぎません。新しいことは何もない、トレーニングの基本中の基本です。

この基本をしっかりと踏まえておけば、この基本概念をパワーメーターとソフトウェアで応用して、重要なレースのある特定の日にピーク・パフォーマンスを生み出せるようになるでしょう。ですから、まずはこの3つのトレーニング要素についてについての認識が一致しているかどうか、確認をすることから始めましょう。

 

■頻度

頻度は、単に何回乗るか、というだけのことです。トレーニングの最も基本的な要素です。

初心者にとって、自転車に乗る頻度は、体力を決める最も大きな要素です。その長さや強度とは関係なく、単によく乗る、ということが重要なのです。もちろん、よく乗る、ということは、高強度で走行することや、長時間走行するということではありません。快適な強度で可能な時間だけ、何回も乗っていれば、初心者は必ず向上するのです。

ベテランのアスリートにとっても、頻度は重要です。初心者ほど重要ではない、というだけです。

しかし、どんなレベルのアスリートでも、練習ができないことが頻繁にあるようでは、強く、速くなることは望めません。もし練習に対してやる気が起きなくなり、1週間のうちで自転車に乗る回数が減ってしまえば、結果的にかなりの体力を失うことになります。

最上級者ともなれば、ロード選手もマウンテンバイクの選手も、1週間に6日は自転車に乗るものです。普段サドルに乗っている回数は、パフォーマンスに深く関係します。おもしろいことに、週に6日の練習を7日にしても、体力には大きな影響はありません。しかし、6日から5日に減らすと、上級者の場合、かなりの体力ロスにつながります。不条理と感じるかもしれません。しかし私は、それが体力というものだと、今では考えています。

トレーニングを行う頻度は、トライアスリートにとって大きな問題です。

ベテラントライアスリートは、ロード選手やマウンテンバイクの選手よりも若干、練習の頻度が低いものです。通常、週4~5回の練習におさえ、スイムやランの練習の時間を作るのです。

限られたトレーニングの時間を最大限に利用することは、マルチスポーツの選手が抱える最大の課題です。特に自転車のトレーニングが難問です。なぜなら、標準的なトライアスロンのレース距離では、バイクパートが完走時間の約半分に相当するからです。

たとえばオリンピックディスタンスのレースを2時間で完走するとしたら、バイクパートはおおよそ1時間になります。12時間のアイアンマンならば、通常、約6時間です。それを考えると、トライアスリートには、トレーニングの半分ぐらいをバイクのトレーニングに充てるよう、勧めたいところです。

頻度は、パワーメーターの使用に関係なく、効果的なトレーニングには欠かせない要素です。いわゆるトレーニングの「量」とは、1週間にこなすトレーニングの時間や距離を指しますが、この概念の半分は、頻度という要素から成るためです。そして量を占めるもう半分は、トレーニングの時間です。

 

■時間

どのくらい長く自転車に乗るべきでしょうか?その答えは、種目のタイプによってさまざまに異なります。

長距離のロードレース、アイアンマン、マウンテンバイクのレース、センチュリーライドに出る上級者は、たいてい週に1回以上は、4時間超の練習を行います。こうすることで、長いレースの苦しさに備えることができるのです。

もし目標とするレースがもっと短いものであれば、いちばん長い練習も通常は短くします。

もちろん、レースの距離に関わらず、短めのアクティブリカバリーとしての走行(ゾーン1の強度で実施する)も考えられます。これは、前の日の長い走行やハードな走行から回復するためのものです。

最も長い走行や回復のための走行のあいだに行う練習では、より高い強度に焦点を当てます。

 

■強度

ベテランのサイクリストにとって、トレーニングで重要視すべきポイントは強度です。運動科学の論文では、何度も証明されていることです。

ベテランアスリートが、週間トレーニング量を重視し、低強度の長い練習だけしていたとしたら、持てる力の限界に近づくことは、とうていできないでしょう。

では、強度はどれだけ重要なのか?強いて数字を当てはめるとしたら、体力のうちの60%程度といったところでしょう。残りのほとんどは、キー・ワークアウトの持続時間によるものです。そして3番目が週間トレーニング量ですが、2番目とはかなり差があります。

これは必ずしもトレーニングの強度をできるだけ高くしなければならない、ということではなく、レースとだいたい同じ強度の走行を、特にキー・ワークアウトでは重視する、ということです。

キー・ワークアウトとは、「持久力」「筋力」「スピード・スキル」「筋持久力」「スプリント・パワー」「無酸素持久力」6つの能力につながる体力のある側面を、あえて試して伸ばそうとする練習のことです。

そのなかでも最もハードな練習とは、種目の持続時間と強度とを忠実にシミュレーションした練習です。また、このような練習をすれば、きっとレースの厳しさに備えられる、という練習のことでもあります。

このような練習では、長い練習にするために、強度を落とすようなことをしてはいけません。トレードオフとしては好ましくないのです。

 

■負荷

負荷とは、頻度、持続時間、強度が組み合わさったものです。1回の練習における負荷は、持続時間と強度の組み合わせで表されます。また、1週間といった一定の時間の負荷は、3つすべての組み合わせで表されます。

1回の練習においては、持続時間または強度が上がったり下がったりすると、その練習の負荷もやはり上がったり下がったりします。低強度での長い走行は、高強度の短い走行と負荷は同じになります。

しかし、その結果得られる体力が同じということではありません。体力はまた別の話であり、目標とするレースに対し、どのくらい持続時間と強度が特化した練習となっているか、ということが関係してきます。しかし、1回の練習での負荷は、持続時間と強度との組み合わせが違っても、同じになることがあるのです。

1週間の負荷は、1週間の量(頻度・持続時間)と強度の組み合わせです。アスリートは、負荷のことを量、つまり1週間にどれだけの時間あるいは距離をこなしたか、という点だけに限って考えがちです。今までの説明から考えれば、これは負荷を表す方法としては、ベストからは程遠いと言えます。

なぜなら、この方法だと最も重要な要素が入っていないからです。その要素とは、強度です。どれだけ長い距離をこなしたか、ではなく、その距離を走行するあいだに何をしたのかが、レースではいちばんものを言うのです。

負荷は、1日、1週間、1ヶ月、1年、あるいはトレーニング期といった任意の単位で捉えて構いません。一定期間での負荷の合計がわかれば、トレーニングをよりうまく管理することができ、ひいてはレースでのパフォーマンスも上がります。そして負荷を増やせば体力を向上させることができますし、負荷を減らせば体を回復させることもできます。

では、どのようにすれば量と強度を組み合わせ、それを数字として表すことができるのでしょうか?ここでもその答をくれるのは、パワーメーターです(その2へ続く)。

 

  • 参考文献:ジョー・フリール著・篠原美穂訳・『パワートレーニング・ハンドブック(仮題・2019年発売予定)』(OVERLANDER株式会社)・本文の抜粋
    ※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。