パワー・ウェイト・レシオを活かす戦術と対抗策

【ヒルクライム・上り】【レース対策情報・レース戦術】2012年5月31日 07:00

ロード・レースでのパフォーマンスに大きく影響すると考えられる指標のひとつにパワー・ウェイト・レシオ(PWR)がある。これは体重1㎏あたりどれだけのパワー(W)を出せるかを表したもので、「W/㎏」や「体重の~倍」 のように記載されることが多い。なぜPWRがそれほど重要になるのだろうか。それは、他の条件が同じ場合、ある持続時間でのPWRが高いほど速く走れるからだ。また、アップ・ダウンの多いコースでのレースでは、登坂能力が勝負を分けることが多いが、それをもっとも正確に表すの指標がPWRである点も挙げられるだろう。今回はPWRの高さを最大限活かすための戦術と、それへの対抗策を『The Time-Crunched Cyclist』や『Cutting-Edge Cycling 』を参考に紹介する。

 

PWRの高い選手の戦術

■勾配のきつい上りでのスピード・アップがもっとも効果的

自分のPWRが出場レース選手(カテゴリー)の中で高いことが分かっている場合は、それを有効に活用する場面は、当然上りとなる。しかし単純に上りといっても、勾配によってその効果は大きく変わってくる。「重力に対して自分の体重1㎏あたりより高いパワーを出せる能力」が最高に活きるのは、重力の影響がより大きくなる勾配のきつい上りといえる。勾配がきつければきついほど重力の影響が大きくなるので、そのような場所でのスピード・アップは、PWRの高い選手にとって有利に働く。ゴール間近で、スプリンターを振るい落としたい場合などは、このような地形を活かしてアタックするのがベストの戦術となるだろう。逆に勾配のゆるい坂では重力の影響が相対的に小さくなり、加速しても効果があまりない可能性もあるので、あまり無理をしないほうがよいかも知れない。

 

PWRの高い選手への対抗策

■平坦路の高速走行で、上りに入るまでにクライマーの足を削る

それではPWRの高い選手がいるとわかっている場合は、どのように対抗すればよいのだろうか。仮に体格がほとんど同じであれば、残念ながら対抗するのはかなり難しいかも知れない。しかしPWRが高い選手が「小柄なクライマー体型」で、自分は「大柄で出せるパワーの絶対値(生パワー)が大きいタイプ」の場合は、「平坦路をなるべく高速で引き倒し、上りに入るまでにクライマーの足を削る」のが、ベストの戦術のひとつになるだろう。

■平坦路ではPWRよりも「パワーに対する『前方体表面積』の比率」のほうが重要

というのも平坦路では、PWRよりも「パワーに対する『前方体表面積』の比率」のほうがパフォーマンスに大きく影響し、この比率は大柄で筋肉量が多い選手ほど有利になる傾向があるからだ。筋肉量が多くなると出せるパワーの絶対値(生ワット)が大きくなるが、『前方体表面積』は体重が60㎏でも90㎏でも、それほど変わらない。つまり体格が大きいほうが「パワーに対する『前方体表面積』の比率」が有利な値になることが多い。また平坦路では、当然ながら重力に抵抗するために費やすパワーが少なく、体重が重いことのデメリットが少ない点も大きいだろう。

 

参考文献

  • Chris Carmichael AND Jim Rutberg共著・『The Time-Crunched Cyclist』・P62~P64・Velopress
  • Hunter Allen, Stephan S. Cheung, PhD共著・『Cutting-Edge Cycling 』・P55・HUMAN KINETICS