足つりの予防方法や対処方法に関する情報

【サプリ・食事・補給】【レース対策情報・レース戦術】2012年5月30日 07:00

レースの大事な局面で足がつってしまい、どうにも踏めくなった悔しい経験をしたことがないだろうか。足がつる原因は、従来発汗による電解質不足と考えられていたが、これを否定するような研究結果があり、実際には科学的に解明されていないといえる。原因がはっきりしていないので、「これをすれば必ず足つりを防止できる」という決定的な方法は、残念ながら現段階ではない。しかし最近、足つり予防に役立ちそうな興味深い研究事例も出てきている。今回は、足つりのメカニズムとして現段階で有力な説や、予防や対処方法に役立つ可能性がある情報について紹介する。

 

足がつる原因についての主な説

■「神経説」が最も有力

足がつる原因として考えられてきた主な説として、『足がつる原因 予防と病気』というサイトでは、以下のようなものが紹介されている。

  1. 代謝説:(遺伝的な)代謝産物の異常
  2. 脱水説:水分バランスの異常
  3. 電解質説:血漿電解質濃度の異常
  4. 環境説:寒冷、温熱の過酷な環境条件
  5. 神経説:神経系の反射異常

最近の研究結果では、1~3についてはあまり関係がなく5の「神経説」が最も有力になりつつある。

 

脱水説や電解質説は否定されつつある

■水分と塩分補給で痙攣が防げることは証明されていない

現在でも広く信じられている2の「脱水説」や3の「電解質説」は、もともと1世紀も前に、高温多湿の環境で働く鉱夫や汽船労働者を対象にした研究での観察結果をもとにしている。そこでの観察の結果、「汗で失われた水分と塩分を補給することで筋肉がつることを防げる」との説が普及したものの、本当にそれが効果があるかは科学的には証明されていない。

そもそも脱水症状は全身の問題なので、一部の筋肉にのみが痙攣する理由づけにはならないとの指摘がある。また電解質説については、筋肉内のイオンバランスの乱れが痙攣を引き起こすとの理論があるものの、どのイオンがどういう濃度になればといった詳しいことは証明されていない。

■実際の研究結果でも関係が認められなかった

実際に、トライアスロンの選手を対象にしたケープタウン大学の研究や、ブリガムヤング大学の研究では、水分や電解質のレベルと筋肉の痙攣に関係が認められなかった。

 

神経説の理論とそれをもとにした足つり対策の可能性

■筋肉の収縮・弛緩に関する信号のアンバランスが原因という説

神経筋が痙攣の原因とする理論は、1997年にケープダウン大学の運動生理学者マーティン・シュルナスによって提唱された。筋肉では、神経系によって伝達される「収縮を誘発する信号」と「弛緩を誘発する信号」がデリケートにバランスが取られている。激しいレースや練習などによって、筋肉が疲労し筋繊維が破壊されるとこの信号のバランスが崩れ、筋肉が過敏になる。この信号がアンバランスな状態が続くと筋肉の痙攣(足のつり)につながる、という理屈だ。

■ピクルスジュースで筋肉の痙攣が速く収まったという研究事例

2010年のブリガムヤング大学の研究では、60mlのピクルスジュースを飲むことで、筋肉の痙攣が45%速く、平均で約85秒以内に収まるという興味深い研究結果が出ている。この効果は、ピクルスジュースが体内に吸収される前に出ていることから、ピクルスジュースに含まれている「酢」が、筋肉の反射信号になんらかの刺激を与え、バランスを正常に戻すのに役立ったのではないかと考えられる。

■芍薬甘草湯のこむらがえりに対する即効性について

『漢方スクエア』では、「漢方薬の芍薬甘草湯(TJ-68)はこむらがえりに対して即効性があり、臨床的に多くの有効例が報告されている」と紹介されている。芍薬甘草湯に含まれる成分が「Caイオンの細胞内流入を抑制」と「Kイオンの流出を促進」することで、筋肉弛緩作用をもたらすというメカニズムが解明されているという。

■その他興味深い研究事例

トライアスリートの研究事例では、痙攣を起こした選手は、起こさなかった選手よりも「レース前に高い目標を設定し」「自己ベストよりも速いペースでレースを進めていた」ことがわかっている。また痙攣をおこした選手が、「レース直前の週にハードな練習した影響で、筋損傷関連の酵素の血中濃度が上昇していた傾向があった」との情報もある。

 

足つりの予防方法や対処方法として考えられもの

これらの情報をもとにすると、以下のような方法が足つりの予防方法として考えられる。現段階では、まだメカニズムが解明されていないので「本当に効果があるか確かではない」点は注意が必要だが、重要レースに向けていちど試してみるとよいかも知れない。

■予防法として考えらえるもの

  • 重要レース前にはテーパリングを期間を設け、筋肉の疲労をしっかり抜く(筋損傷を招くような練習は避ける)
  • レース前に、スポーツ・ドリンクや果物でナトリウム・カリウム・カルシウムといった電解質(イオン)をしっかり補給しておく(バナナはカリウムが豊富でエネルギー源としても優秀なのでおすすめ)
  • 現実的な目標設定をしてレースに臨む
  • 可能な限り、自分の能力を大幅に上回るペースでのレース展開を避ける

■足がつった時の対処方法として考えられるもの

  • 足がつったら多少痛くても筋肉を伸ばす(筋肉を伸ばすと抑制性の反射が誘発され、足のつりを終わらせられると考えられる)
  • 少量の「ピクルスジュース」や「芍薬甘草湯」などをエナジーボトルなどに入れておき、つりそうになったら飲む(筋肉信号のバランス回復に役立ち、足つりを回避できる可能性がある)

 

参考URL

 

参考文献

  • アレックス・ハッチンソン著, 児島修訳・『良いトレーニング、無駄なトレーニング』・P111~114・草思社
  • 蔵本理枝子, ドロンジョーヌ恩田共著・『自転車女医のサイクリニック』・P111・枻出版社
  • 八田秀雄著・『乳酸を使いこなすランニング』・P195, P196・大修館書店