スプリント・ドリル ~シーズンを通して継続したい、スプリントの各種要素のトレーニング方法~

【トレーニングメニュー】【レース対策情報・レース戦術】【立ち読み版】2018年5月7日 06:10

 

スプリントの成功はさまざまな要因に左右されます。もちろんパワー出力もそのうちの1つですが、他にも、位置取り、タイミング、技術、運、そして勇気なども必要です。

スプリント・パワーは、ベーストレーニングの段階から1年を通じて向上させていきます。まずはフォームの改善から始め、その後にスプリント特有の筋力を強化します。正しいフォームと強い筋力によって、スプリント・パワーは向上します。スプリント・パワーは、いかにハードにペダルを踏めるか、いかに速く無理なくペダルを回せるかで決まります。シーズンを通して、スプリントのすべての要素のトレーニングを継続しましょう。

スプリントは実走で練習することをおすすめします。固定ローラーでは、文字通り固定されているためにスプリント時に自転車を動かせず、技術を磨くことができません。このため、練習効果が低くなる場合があります。また、ローラーに固定された自転車に力をかけることで、フレームを傷めてしまうリスクもあります。ただし3本ローラーであれば、かなり慣れている必要はありますが、スプリント・ドリルを行えるでしょう。

 

■フォームスプリント

スプリントのフォームを固め、滑らかで効率的な動きにするための練習です。これは高強度のインターバルではありません。パワーよりもフォームを重視します。フォームスプリントは約10秒で終えます。ポイントは、スプリントの動作と筋肉の動きに慣れることです。

フォームスプリントは、スピードを上げ、抵抗を減らしやすくするために、中程度の下り、または平地での追い風状態で行います。中程度の速度で、ハンドルのドロップ部分を握り、ローリングスタートでスプリントを始めます。ペダルが四分円の上部を経過する際にペダルの上に立ち上がり、上半身を前傾させます。まず右のペダルから踏み込み、次に左のペダルで試して、自分にとって快適な方を見つけましょう。

ダンシングでスプリントをしながら、自分が対応できる最大のケイデンスに達したら、スムーズにシッティングに戻ります。速度を維持しながら、ゆっくりとサドルに腰を下ろします。サドルに勢いよく腰を下ろさないように注意しましょう。シッティングに戻ったらギアを変えても構いませんが、スプリントの最後まで維持できるギアから始め、ケイデンスを上げていくようにします。目標は、130rpm 以上のケイデンスでスムーズにスプリントができるようになることです。フォームスプリントでは、ケイデンスを一気に上げるようにします。そのためには、軽いギアを活用しましょう。

パワーを上げることよりも、スムーズなフォームを重視します。ハンドルのドロップ部分を握り、上半身は低く、臀部はクランクの後ろまで引き、手首はやや外旋させ、肘は曲げて横に突き出し、前方を見ます。視線は必ず進行方向に向けておきましょう。ダンシングのときも、臀部はクランクの後ろに保持します。ハンドルバーに寄り掛かったり、バーから身を乗り出したりしないようにします。ペダルを前方と下方に押し込むように上半身を使い、ハンドルバーに寄り掛かって上半身を支えているという感覚にならないようにします。上半身は低く、肘を90°くらいに曲げます。肘は横に突き出して、下げないようにします(図13.2を参照)。

図 1 3 . 2  正しいスプリントフォーム

この姿勢は、上半身を効果的に使える、よりパワフルなポジションです。上半身と臀部を軽く左右と前方に振ります。上半身を振ることでペダルストロークにさらに力がかかるようになり、脚力だけでなく上半身の筋力も使って推進力を生み出せます。自転車を極端に左右に振らないようにします。フィニッシュラインに早く辿りつくためには、自転車を左右ではなく前に進めなくてはいけません。スプリントのフォームに慣れるまでは遅めの速度で練習し、徐々にペースを上げていきます。

ロードレースに出場する場合は、週2~3回のロングライドを行い、そこでフォームスプリントを3~5回練習します。自分のフォームで違和感なく、高速でスプリントができるようになったら、レースを想定して他のサイクリストたちと一緒に練習しましょう。

 

■筋力スプリント

筋力スプリントでは、できるだけ大量の筋線維を動員することを体に覚え込ませます。このドリルでは、ペダルに最大限の力をかけながら、ゆっくりと重いギアを回します。

まず、かなり重いギアに入れ、自転車が停止する寸前の状態から始めます。ペダルの上に立ち上がり、ハンドルバーを引き寄せ、最大限の力でペダルを踏み込みます。フォームスプリントと同じように上半身を使いますが、ここではペダルを素早く動かす必要はありません。回し切れない程度のギア比とし、具体的には12回踏んで90rpmに到達する程度の重さを目安にします。

筋力スプリントは、加速時にギアを変えずに抵抗を保てるように、ゆるやかな上りで行います。勾配のきつい上りでは行わないようにします。「スタンディングスタート」という用語を耳にしたことがあるかもしれません。これは同じコンセプトですが、このドリルではスプリントのフォームの上達にも取り組みます。スプリントと同じ筋肉を使いますが、スプリント時よりも大きな筋力を発揮するようにします。筋力スプリントの最中に心拍数やパワーを確認する必要はありません。この練習では、極端に低いケイデンスから踏み始め、できるだけハードにペダルを踏み込むことに集中しましょう。最大パワーと平均パワーを記録して、向上度合を確認します。

 

■パワースプリント(PS)

スプリント・パワーを強化するということは、より大きな抵抗に瞬時に打ち勝つ能力を高めるということです。つまり、より重いギアをより速く回せるようになる必要があります。パワースプリントの練習でも最初から重めのギアに入れておきますが、筋力スプリントほど重たくはしません。中程度から高速で、サドルから腰上げ、ペダルを可能な限り素早く、力強く、前と下に踏み込みます。スプリント開始時は、楽な方の足から踏み始めます。ペダルが四分円の上部を越えたら立ち上がり、練習した通りのフォームでスプリントを開始します。10秒間、または24回ペダリングするまで、最大限の運動を継続します。スプリントの間はハードな運動強度を維持しますが、そのギアを素早く回し切れるようになることを目指しましょう。パワースプリントでは、少なくとも130rpm に達するようにします。

心拍数は運動から少し遅れて変化するので、スプリント・パワー強化の練習ではパワーメーターを使用するのが最適です。パワーメーターは止めどきを教えてくれます。パワーが落ちれば、その日の練習は終わりにします。パワースプリントの目標パワー値は CP0.2(12秒間維持できる最大平均パワー)ですが、できるだけハードに、速く走ります。

練習にバラエティーを加えるために、高速のローリングスタートで坂を上りながらパワースプリントをしてもよいでしょう。重いギアで、高速で坂に入ります。ふもとについたらサドルから腰を上げ、ハンドルバーを引き寄せながらペダルを前に送り、下に踏み込みます。最長20~30秒間スプリントし、回復時間は長めにとります。

スプリント・パワーを向上させるために、足が疲れていない練習の序盤で行い、パワースプリントの合間には、最低5分間の回復時間を挟みます。後に、優先度の高いレースが近づいてきたら、レースの最後でスプリントをかけるときの状況をシミュレーションするために、長時間のハードな練習の終わりにパワースプリントを行ってもよいでしょう。

 

■反応時間

反応時間はスプリントを成功させるうえで重要な要素の1つです。自らしかけた場合でも、他の選手に反応する場合でも、反応が早ければそれだけ有利になります。この能力を高めるには、神経筋のシステム(反射神経)を強化する必要があります。これは、強化対象の運動を繰り返し練習することで実現できます。

反応時間を改善するベストの方法の1つは、他の選手と一緒にスプリントの練習をし、しかけ役を交互に替わるというものです。まずは並走し互いにペースを合わせます。体をリラックスさせ(筋肉をリラックスさせると、少ないエネルギーで、素早くスムーズに反応しやすくなります)、一方の選手がスプリントをしかけるのを待ちます。呼吸は止めないようにします。相手の体が反応したり、動きが速くなったら、全力でペダルを踏みます。いったんスプリントを開始したら、躊躇せずに全力で走ります。「前に出るのが早すぎたかもしれない」などと不安を感じる必要はありません。この時点では、それは大きな問題ではありません。大切なのは、全力でスプリントをすることです。私は、躊躇したためにスプリントで負けたサイクリストを多く見てきました。このドリルを多く行うほど、反応時間が速くなります。チーム全体でこのドリルを行うこともできます。その場合は、コースの脇にチームメイトが1人立ち、開始の合図にホイッスルを鳴らします。

 

■リード・アウト

私は、レースシーズン前にリード・アウトの練習をするチームが少ないことに驚いています。チームでリード・アウトの技術を磨いておくことは重要です。優れたリード・アウトは、芸術的でもあります。プロツアーのトップチームのような域に達することはできないかもしれませんが、技術が高まるほど、チームのスプリンターが勝つ確率は高まります。ベーストレーニングでのリード・アウトの練習は若干時期的に早いかもしれませんが、早く始めればそれだけの効果が見込めます。

この練習を行うには数人のサイクリストが必要です。レースの最後にチームメイトが4人以上先頭集団に残り、パワーが出せる状態でなければ、他のチームのリード・アウトの列車を使うなど、チームスプリンターのために何か他の手段を考えるしかありません。1~2人の選手でスプリンターをリード・アウトすることも可能ですが、フィニッシュラインの遠くからしかけることはできず、そのペースを長くコントロールすることもできません。

「長い列車でスプリンターをフィニッシュまで引く」という戦術には、「集団を引き伸ばし、自チームのスプリンターに他のチームの選手がついていけないほどのペースをつくる」という目的があります。列車を引くチームメイトが多いほど、フィニッシュラインから遠い位置でしかけることができ、高速ペースを維持できる距離も長くなります。フィニッシュラインから遠く離れた地点からしかけるとすれば、先頭を引く選手が順番に列車の後ろに下がりローテーションを回す必要が生じる場合もあります。この場合、最も持久力がある選手が先頭を引き、列車の後方に下がります。目的は、自チームのスプリンターがフィニッシュラインの手前200mで集団の先頭に立てるように引くことです。これができたら、スプリンターは後ろの選手よりも自転車1台分有利になります。またはチームメイトの数が十分ならば、自チームのスプリンターの後ろにスイーパー役を置き、他のチームの選手をスプリンターの真後ろにつけさせないようにすることもできます。

スプリンターは、減速、加速、右か左に下がるなどを声に出して列車を指揮してもよいでしょう。列車の先頭から下がるサイクリストをうまく使って、スプリンターの近くに位置取りしようとする他のサイクリストやチームの動きを阻むという戦術もあります。他のサイクリストたちが左側から寄ってきたら、それを確認できる位置にいるスプリンターが、先頭のサイクリストに左側から下がるよう指示します。ただし、この動きは危険を伴うので、特に下のカテゴリーでのレースでは十分な注意が必要です。列車の先頭から下がるときにスピードを落としすぎると、後ろにいる他のチームの選手と玉突き事故を起こす可能性があります。道路のスペースが限られている場合は、衝突も起こりやすくなります。スプリントをしない選手は、フィニッシュラインの200m手前の地点までに、列車の先頭から下がりましょう。その地点を越えたら、列車にとどまり左右に動かないようにします。

この練習をすることで、ペース配分の戦略も磨くことができます。自分のチームの列車が、どれくらいの速度で、どれくらいの距離を走れるかを知らないままレースに出場すれば、飛ばしすぎてフィニッシュの前に力尽きることも考えられます。これではスプリンターが取り残され、チームの努力が無駄になってしまいます。チームでのロングライドの終わりには、リード・アウトの練習を2回程度行うようにしましょう。

もし、あなたが優勝を狙える強いチームのエーススプリンターならば、ゴール手前まで列車に引かれてフィニッシュラインの手前でスプリントをかけることを想定して、パワースプリントの練習を行うとよいでしょう。そのためには、スピードが出やすい長い下りのあとに平坦な直線が続くコースを探しましょう。下りを利用してスピードを上げ、平坦な区間に入ると、あたかもリード・アウトの列車の目の前のサイクリストが先頭から外れ、自分が風のなかへ解き放たれたかのように感じるはずです。平坦区間に入ると同時にスプリントを開始し、できるだけ加速して、その速度を長く維持します。

 

 

  • 記事出典:トーマス・チャップル著・児島修訳・『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』(OVERLANDER株式会社)・P289~295の抜粋
    ※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。