加齢とは何か?「ふつうの」加齢とアスリートにとって気がかりな加齢の兆候

【立ち読み版】【速くなるためのヒント一覧】2024年5月20日 13:40

50を過ぎても速く! 50・60・70代になってもハイパフォーマンスを諦めない

 

老いるということは、若さを失うことではなく、可能性と力が新たなステージを迎えたということである。

-ベティ・フリーダン

 

これから10年先、20年先、30年先、あなたは自分の体に何が起きると思いますか?他人が老いていくのを目にはしていても、いずれ自分の身にも同じことが起きると考えたことはないでしょう。あなたはアスリートです。今まで体調を万全に整えてきました。最近いつ風邪をひいたか、覚えてもいないでしょう。確かに、ここ何年かのあいだでは、いくつか怪我をしたこともあったかもしれません。しかし、そんな経験のないアスリートなど、いるでしょうか?体力を向上させること、そして競技に参加することはいつも生活の重要な一部分でした。これからもそうあり続けることができるでしょうか?

周りの人の多くは、あなたに向かって、そんなに無茶をして運動するな、とか、年を考えてゆっくりしろ、などというはずです。骨折や心臓麻痺など、怖い話を持ちだす人もいるかもしれません。誰それをご覧なさい、というセリフを耳にすることはしょっちゅうです。彼は助言を無視したから今、膝の代替手術を受ける羽目になった。トレーニングやレースはこれから出ないこと。やり過ぎは体に毒だ。一生レースに出続けられる人はいない。一休みをすることを覚えたほうがいい。人生の黄昏時を楽しめばいいじゃないか。そんな声はよく聞きます。

もちろん、あなたがそんな古臭い考え方に染まっていれば、この本を読んではいないでしょう。しかし心配は要りません。50代、60代、70代、あるいはそれ以上に年を重ねても、人は本当にエネルギッシュでいられるのです。この場合の「エネルギッシュ」とは、きついトレーニングを十分こなすことができる、そして競技において質の高いパフォーマンスを生みだせるという意味です。

では、それには、何が必要なのでしょうか。加齢を遅らせるだけでなく、加齢のプロセスを逆行させ、この先もスピードを維持する、あるいは、さらに向上させることはできるのでしょうか?答えはイエスです。そして、読者の皆さんには、イエスであると信じてほしい。なぜなら、そのための説明を、これから始めるからです。本書では、ほかのアスリートたちがどうしているのか、そしてあなたならどうすればいいのか、ということを紹介したいと思います。

もしかしたら、本書を読むうちに、ローラーコースターに乗っているような気分になるかもしれません。私は何も手心を加えるつもりはありません。50代、60代、70代あるいは何歳になっても速くありたい。そう心から願っていれば、多くのことに最大限の注意を払う心構えが必要です。しかし、今までずっとアスリートとして生きてきたならば、そして競技があなたという人間の大部分を占めているならば、高い目標を達成するためにはどのくらい厳しいトレーニングが必要かということは、もうわかっているはずです。あなたにその固い決意があるならば、道は開かれるでしょう。

しかし、先走るのはやめましょう。重要なことから取り掛からなければいけません。一から始めましょう。

 

■加齢とは何か

アスリートの立場から見た加齢とは、いったい何なのでしょうか。おそらく、老年という言葉を自分なりに考えてみたほうがいいでしょう。

あなたが子供のとき、自分のおじいさんやおばあさんが、どのくらい年老いて見えたでしょうか、そしてどのくらい弱っているように見えたでしょうか。また、ご両親の場合はどうでしょうか。10代の目から見れば、きっと年寄りに見えたかもしれません。しかし、今振り返ってみれば、まだ若く活気に満ちあふれており、まだまだ子供でしかありませんでした。それからの何十年という月日のなかで、あなたは、ご両親が老人になっていくさまを見てきました。そして「年をとるとはこういうことか」と胸に深く刻まれることにもなったのです。あなたの頭のなかには「老齢」という名のフォルダがあるのです。そして、自分が成長する過程で経験したことを基にして書いた、老齢という言葉の定義に関する文書を、いくつか保存してきたのです。あなたの祖父母と両親の文書は、そのフォルダのなかに、今あなたの目の前で老いを重ねている友人たちのものと一緒に保存されています。おそらくあなたは「私には関係のない話」と自分に言い聞かせてきたことでしょう。確かに老化はそこまで来てはいません。まだまだアクティブだからです。彼らとは違うのです。

しかし、体が変化しているというサインには必ず気づくはずです。もう子供ではありません。ビールを注文しても身分証明書の提示をしなくて済みます。周りの人は、若いときよりも少しだけ敬意を払ってくれるようになり、敬称をつけて名前を呼んでくれます。「寄る年波」が現れているからです。それは、白髪の交じった髪であったり、顔に現れ始めたシワだったりします。あるいは、背中が硬いことかもしれません。以前よりも立ち上がるのが遅くなると、わかります。しかし、それ自体はどうでもよいのです。競技では、こうした寄る年波のほとんどには、まだ負けないことがわかっています。周囲の人もそれをわかっていて、あなたに多大なる尊敬の念を寄せています。なぜなら、あなたによって老齢の新しい定義が生まれたからです。あなたは、年下の選手のロールモデルとなっています。それは確かな事実です。

お孫さんはいますか?孫の存在は、根本から考え方を変えさせます。私がそうでした。私の服(孫:『おじいちゃん、そのシャツ、変!』)や音楽(孫:『ビートルズって何?』)の好みは、11歳の孫娘にとって強烈です。私のような人間なら、服にしろ音楽にしろ、また別のことにしろ、変だとは思わないでしょう。自分のことなのですから。

どちらにしろ、これからは、心よりも体の変化を感じることが多くなることに、変わりはありません。たとえ今、心の変化のほうがはるかに多かったとしてもです。こうしたことのすべての理由、そしてこれから先の何年かに予想されることは何でしょうか。科学は何十年もこの疑問を解き明かそうとしてきました。競技パフォーマンスに関してはどうでしょうか。あなたはまぎれもなく変化を感じているでしょう。この変化はやむを得ないことなのでしょうか。おそらくあなたは、自分より年上と思われる選手であっても競技志向を持ち続けている人を知っているでしょう。人よりも突出するために彼らが何をしているのでしょうか。それはあなたにもできることですか。また、あなたは今よりも高いレベルでトレーニングや競技をすることができるでしょうか。さらに、それをこれから先も続けることができるでしょうか。これは大きなチャレンジです。しかし、私には大丈夫だという確信があります。ほかの選手がそうだったという事実を、実際にこの目で見ているのですから。

つまるところ、これはあなたが毎日の生活で行う選択なのです。その選択は、単にトレーニングだけではなく、小さなことから大きなことまで、生活習慣全般の決定も含みます。すべてが大切なのです。本書で検討するのは主にスポーツパフォーマンスに関するものです。しかし、それだけがすべてだとは思わないでください。トレーニング以外にも加齢を遅らせるためにできることはたくさんあるのです。その加齢に抗う方法に関しては、第2章で触れます。

 

■「ふつうの」加齢

我々が「加齢」と呼んでいることを、科学ではどう説明するのでしょうか。意外なことに、科学者は未だにこの問題に答えを出せていません。完全に解明されていないのです。学説は何通りかあります。そして調査も行われています。しかし、確固たる答えが得られないのです。研究者のほとんどが行ってきたことは、加齢現象に限定して研究することでした。現象を観察することは、比較的やさしいことです。ですから、人の平均寿命が延びるにしたがって、過去何十年間に似たような研究が数限りなく繰り返されてきたのです。

では、科学の世界では、加齢が何をもたらすといわれているのでしょうか。その恐ろしい兆候とは何でしょうか。ほとんどの調査で報告された、加齢の一般的なサインの一部をまとめると、下のようになります。

 

  • 皮膚は弾力性を失い、皮脂腺による皮脂の分泌が減るために、以前よりも乾燥するようになる。
  • 爪の伸び方が遅くなる。
  • 毛髪は細くなり、色素細胞が減少するため、白髪が増える。
  • 椎間板などの結合組織が圧迫されることにより、身長が低くなる。80歳になるまでに、通常5cm低くなる。
  • 55歳ぐらいになると、高周波音が聞こえづらくなる。
  • ほとんどの人は50歳までに老眼鏡が必要になる。なぜなら加齢により水晶体が硬化し、近くにあるものに焦点を合わせる機能が衰えるからである。
  • 月経周期が不順になり、その後閉経する。
  • 通常、睡眠時間が短くなり、睡眠の質も低下する。夜間覚醒が頻繁になる。
  • 骨量が減り、その結果、骨がもろくなる。
  • 基礎代謝速度が遅くなる。結果的に体重が増加することが多く、そのほとんどは肥満につながる。

 

言われなくてもわかることばかりです。目新しいことは1つもありません。おそらくこのうちのいくつかは、自分でも思い当たることがあるでしょう。それにこのリストは一部に過ぎません。脳などの神経系、心血管系、肺、腎臓などの泌尿器系、性機能などのことも考えれば、このリストはさらに増えるでしょう。悲しいことに、それ以外にもあります。変形性関節症、甲状腺機能低下症、2型糖尿病、高血圧、がん、冠動脈疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、認知症などの疾病にかかるリスクも出てくるのです。これらはすべて白衣をまとった研究者が我々に告げていることであり、それは何十年も前から変わりません。彼らによれば、我々はもれなく加齢現象という目的地に向かう列車に乗っているのです。何とかしてここから降ろしてもらえないのでしょうか。

しかし、ここで気をつけなければならないことがあります。こうした気の滅入るような変化について我々が得た情報は、「ふつうの人」について調査した結果だということです。これは重要です。ここでいう「ふつうの人」とは、世間一般の人びと、つまりその多くは坐業中心の生活で過剰体重であり、運動する気のない人のことです。年齢が若くても、ふつうの人の多くは、すでにこうした加齢現象の初期段階にいます。そして最悪の状態を避けるために、薬を飲んでいます。ふつうの人の場合、運動と栄養はプログラムに入っていないのです。

このような人たちが世間の大半を占めているため、これが人間の生理学的状態の共通指標、つまり「ふつう」とみなされているのです。しかし、現生人類であるヒト、あるいは旧人類を含むホモサピエンス全体からすれば、こうした人びとはもちろんふつうの状態ではありません。そればかりか、不健康なのです。そして彼らはそれに気づいていない。自分たちの身にふりかかったことは、避けられないことであり、コントロールすることはできないと信じ込んでいます。新しい薬が開発されるように祈るのが関の山。最悪なのは、我々の社会がこれを加齢に対するふつうの認識だと受けとめるようになり、さらにはそれを広めていることなのです。

我々は200万年以上、進化してきました。しかしそれは、ポテトチップスを食べながらテレビの前に座り、生活習慣病にかかるためではありません。人間はそもそも活動的であり、元気に、精力的に動くようにできているのです。現代のアスリートである皆さんと同じです。我々の先史時代の祖先はずっとそうしてきました。というよりも、彼らにはそうするしかなかった。丈夫であることは、生き延びるための必要条件だったのです。広い意味では、アスリートであったといえるでしょう。もちろんカウチポテトなどするわけがありません。多くの人の寿命は、一般に信じられているのとは違って、50代後半、60代、あるいはそれ以上でした(1)。しかし、この時代の平均寿命が短かったのは、乳幼児期に死亡することが多かったからです。この乳幼児期を生き延びられれば、精力的な身体活動、ジャンクフードのない食生活のため、その後何十年も健康を保つことができたのです。

加齢のサインについて科学が「知っている」ことの多くは、おそらく皆さんにはあてはまらないでしょう。「ふつう」の人に比べて、加齢により生活習慣病にかかるリスクは、かなり低いのです。ふつうではない。それでいいのです。活動的で精力的な、祖先の生活習慣を受けついでいる。その皆さんは、アスリートなのです。

しかし、シニア・アスリートであっても、やはり加齢の兆候はあるものです。と言っても、数あるうちの一部です。あまり動かない人もそうですが、活力がないために、気づきません。アスリートは違います。加齢の兆候が目につき、何よりも重大ととらえます。パフォーマンスに関わるからです。加齢によりパフォーマンスがある程度低下することは、ほとんどの運動生理学の調査において、明らかになっています。後記の事象は、我々が、跳ね返したい、あるいはせめて最小限にとどめたい、と思うものです。これについては、これから徹底的に検討します。

 

■アスリートにとって気がかりな加齢の兆候

 

  • VO2maxが低下する。
  • 最大心拍数が減少する。
  • 1回の拍動で汲み出される血液量が減少する。
  • 筋線維が失われた結果、筋肉量が減り、筋力が弱くなる。
  • 有酸素酵素の活性が低下し、量も減少する。
  • 血液量が減少する。

 

このほかにもあります。これだけでも十分、誕生日パーティから逃げたくなります。しかし、気を取り直してください。すべての研究が、この加齢の兆候を認めているわけではないのです。本書の後半では、この矛盾と、それがアスリートである我々にとって何を意味するのかを、解き明かしたいと思います。

それでも、こうした運動における一般的な加齢のサインのうち、少なくともいくつかは、確かに身に覚えがあります。そして年をとればとるほど、それは多くなります。このような劣化を遅らせる、緩和させる、あるいは逆転させるような方法はないのでしょうか。それは、あります。その答えはやはり科学的な調査のなかに見つけられます。第2部では、このようなパフォーマンスの変化に対する解決策を検討します。しかしその話に入る前に、これらの生理学的な加齢のサインが持久系競技のパフォーマンスにどのような影響を与えるのか、理解しておくことが非常に重要です。

 

 

50を過ぎても速く! 50・60・70代になってもハイパフォーマンスを諦めない

※この記事は、『50を過ぎても速く!』篠原美穂訳・OVERLANDER株式会社(原題:『FAST AFTER 50』ジョー・フリール著・velopress)の立ち読み版です。『50を過ぎても速く!』は、アメリカを代表する持久系スポーツコーチであるジョー・フリールが、サイクリスト、ランナー、トライアスリート、水泳選手、スキー選手、ボート選手など、すべての持久系競技のアスリートのために、最新の研究をベースにして、「50歳を過ぎてもレースで力強く走り、健康を維持する方法」をわかりやすく解説した好著です。

※本件記事用に、本文を一部加筆修正しています。

 

■著者:ジョー・フリール(Joe Friel)

ジョー・フリールは、TrainingPeaks.comおよび TrainingBible Coachingの共同創立者です。運動科学の修士号を持つフリールは、1980年から持久系アスリートの指導にあたってきました。彼の教えを受けたのは、自転車、マウンテンバイク、トライアスロン、ランニング、ボート、馬術の選手などであり、年齢もさまざま、初心者からエリートまでとレベルも幅広く、アマチュアもプロもいます。なかにはアイアンマン・レースの優勝者、米国内外のチャンピオン、世界選手権代表、そしてオリンピック代表もいます。

フリールの作品は以下のとおりです。『サイクリスト・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『トライアスリート・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)、『The Mountain Biker's Training Bible』、『Cycling Past 50』、『Going Long』(共著)、『The Paleo Diet for Athletes』(共著)、『Your First Triathlon』、『Your Best Triathlon』、『The Power Meter Handbook』、『Precision Heart Rate Training』(寄稿)、『Total Heart Rate Training』『Triathlon Science』(共同編集)。フリールはまた、米国トライアスロン指導者委員会の設立に携わり、会長を2期にわたってつとめました。

そのほか、『Inside Triathlon』、『Velo News』をはじめとする、200を超える雑誌のコラムを執筆するかたわら、米国以外の雑誌やウェブサイトにも頻繁に記事を寄稿しています。持久系競技のトレーニングに関して、さまざまなメディアから意見を求められており、紹介記事が掲載された雑誌は、『Runner's World』、『Outside』、『Triathlete』、『Women's Sports & Fitness』、『Men's Fitness』、『Men's Health』、『American Health』、『Masters Sports』、『Walking』、『Bicycling』といった専門誌から、『The New York Times』、『Vogue』にまで及びます。

フリールはこれまでに、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ、太平洋地域でキャンプを主催し、アスリートはもとよりコーチにも、トレーニング、レースについて指導を行っています。また、フィットネス産業や政府機関のアドバイザーとしても活躍しています。

エイジグルーパーとしては、コロラド州マスターズ選手権優勝、ロッキーマウンンテン地区、サウスウェスト地区のデュアスロンエイジ別優勝などの戦績を誇り、全米代表チーム入り、世界選手権出場の経験もあります。現在は、サイクリストとして米国の自転車レースシリーズやタイムトライアルにも参加しています。

 

■訳者:篠原美穂

慶應義塾大学文学部(英米文学専攻)卒業。主な訳書に『アドバンスト・マラソントレーニング』、『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』、『はじめてのウルトラ&トレイルランニング』、『ランニング解剖学第2版』(以上、ベースボール・マガジン社)、『トライアスリート・トレーニング・バイブル』(OVERLANDER株式会社)などがある。