スピード・スキル(Speed skills)とは、素早く効率的に動く能力のこと【CTB】

【期分け・練習計画】【立ち読み版】2014年9月30日 00:01

スピード・スキル(Speed skills)とは、素早く効率的に動く能力のこと

■スピード・スキルが向上するとレースでのタイムやパフォーマンスも向上する

スピード・スキルとは、素早く効率的に動く能力のことです。スピード・スキルが優れた選手は高速でもペダルをスムーズに回すことができ、無駄のない動きで機敏にコーナリングできます。「スピード・スキル」は、「速度」に関連する言葉ですが、同じ意味ではありません。スピード・スキルが向上するにつれ、レースでのタイムやパフォーマンスも向上します。200rpmでペダルを回すとなると、いくつか遺伝的な要素が絡んできます。世界レベルのスプリント・パワーを出せるアスリートは、素早く収縮可能な速筋線維の割合が多い反面、疲労しやすい傾向があることがわかっています。

■体力が高いレベルにあるアスリートがトレーニングでもっとも向上させることができるは「エコノミー」

速度は、下記の公式で示すように、ケイデンスとギア・サイズに影響を受けます。

  • 自転車の速度=ストローク・レート×ギア・サイズ

速度を上げるためには「高速でペダルを回すこと」と「重いギアを踏むこと」(あるいはその両方を、若干レベルを落として行うこと)が必要です。

もちろん、実際のレースは複雑であり、VO2max、LT、エコノミーなども考慮する必要があります。これらの能力があるからこそ、重いギアを長時間にわたって高速回転させることができるのです。これらのうち、すでに体力が高いレベルにあるアスリートがトレーニングでもっとも向上させることができるは、エコノミーです。

エコノミーとは「一定のパワーでペダリングするのどれだけの労力を費やすか」を指します。理想は、無駄なエネルギーを使わずに素早く動くことです。エコノミーがよくなると、同じ労力でより速く走ることができるようになります。これが「スピード・スキル」で、トレーニングの三角形の一角を占める能力です。

■スピード・スキルのトレーニングの進め方

筋力同様、スピード・スキルのトレーニングも一般的な内容から専門的なものに段階を追って進めていきます。目標は、現在の実力よりも高いケイデンスで、楽に(エネルギーの消費を抑えて)ペダリングすることです。いくつかの研究によれば、一貫した目標にもとづいて適切に練習することでケイデンスは高められます。そのためのトレーニングでは、まずドリル(一般的な練習)から始め、現在よりもケイデンスを高くして走行する練習(専門的な練習)に徐々に移行していきます。

■ペダリングのエコノミーを調べる簡単な方法

ペダリングのエコノミーを調べる簡単な方法があります。それは、軽いギアで数分間維持できるケイデンスの最高値を調べるというものです。ランス・アームストロングは、ツール・ド・フランスを連覇していた最盛期、タイム・トライアルで 110~120rpmという驚異的なケイデンスを出し、その優れたエコノミーを証明しました。1990年代初頭、初めて自転車の世界に姿を現した時の彼は「ペダルをゴリゴリ踏むタイプ」で、ケイデンスは 80~90rpm程度でした。1990年代後半になると、彼のペダリング・スキルは飛躍的に向上し、エコノミーも大幅に改善した結果、競争力も向上したのです。

■エコノミー向上のためには長期的な努力が必要

エコノミーは鍛えれば向上します。それによってレースでのタイムも速くなり、成績もよくなるでしょうが、実現するには時間がかかります。スウェーデンのランナーを対象にした研究によれば、エコノミーは VO2maxが停滞してからも 22か月間にわたって向上し続けることがわかりました。向上のためには長期的な努力が必要であり、わずかな練習ですぐに成果が出るものではないのです。

自分はすでにエコノミーが優れているので、これ以上の努力は不要だという考えは、ほぼ間違いなく誤りです。米国の伝説的なランナー、スティーブ・スコットは、1980年代初頭、1マイルの世界記録樹立直前にエコノミーを 6%も向上させました。優れたエコノミーを持つ一流ランナーがそれだけ向上できたのですから、一般的な選手にはさらに大きな改善の余地があるでしょう。ペダリングのエコノミーが 1%向上すれば、40kmのタイム・トライアルで 30~40秒縮めることも可能です。6%、10%のレベルで向上すれば、パフォーマンスは飛躍的に高まるはずです。

 

※この記事は、『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』児島修訳・OVERLANDER株式会社(原題:『THE CYCLIST'S TRAINING BIBLE 4TH EDITION』ジョー・フリール著・velopress)の立ち読み版のランダム掲載分です。『サイクリスト・トレーニング・バイブル(CTB)』は、わかりやすく最も信頼のおける自転車トレーニング教本として名高い世界的ベストセラーの日本語版です。■

 

著者紹介

ジョー・フリールジョー・フリール

ジョー・フリールは、1980年から持久系アスリートを指導してきました。依頼者はアマチュアからプロのロードサイクリスト、マウンテンバイク選手、トライアスロン選手、デュアスロン選手、水泳選手、ランナーと多岐にわたります。米国内だけでなく海外の国内チャンピオン、世界選手権に出場するような一流選手、オリンピック選手など、世界中のアスリートが、フリールの指導を受けてきました。

本書以外にも、彼の著書には、『Cycling Past 50』、『Precision Heart Rate Training』(共著)、『The Triathlete’s Training Bible』『The Mountain Biker’s Training Bible』『Going Long: Training for Ironman-Distance Triathlons』(共著)、『The Paleo Diet for Athletes』(共著)、『Total Heart Rate Training』『Your First Triathlon』などがあります。また、フリールは運動科学の修士号を取得しています。

『Velo News』『Inside Triathlon』などの雑誌のコラムニストとしても活躍し、海外の出版物やウェブ・サイトにも特集記事を寄稿。スポーツ・トレーニングの権威として、『ニューヨーク・タイムズ』『アウトサイド』『ロサンゼルス・タイムズ』などをはじめとする、大手出版社などのメディアからも頻繁にコメントを求められています。また、米国のオリンピック関連の各連盟にもアドバイスを提供しています。

フリールは、持久系のアスリートのトレーニングやレースについて、世界中でセミナーやキャンプを行い、フィットネス産業の諸企業へアドバイザーとしても活躍しています。彼は毎年、もっとも将来性の高い優れたコーチを複数名選び、一流のコーチの仲間入りができるよう、彼らの成長を見守っています。

 

訳者紹介

児島 修

1970年生。立命館大学文学部卒(心理学専攻)。スポーツ、ビジネス、ITなどの分野で活躍中。訳書に『ベース・ビルディング・フォー・サイクリスト』(OVERLANDER株式会社)、『シークレット・レース』(小学館文庫)、『マーク・カヴェンディッシュ』(未知谷)などがある。