グリコーゲン・ローディングに関する情報の整理

【サプリ・食事・補給】【ヒルクライム・上り】【レース対策情報・レース戦術】2012年8月9日 07:00

グリコーゲン・ローディングの手法は1960年代から研究されているが、その間に新しい手法が編み出されたり、その効果や限界点についても明らかになりつつある(ただし科学的に結論が出ていない点もある)。今回は、グリコーゲン・ローディングの方法・効果・注意点などについての新旧を含めたさまざまな情報を整理した。

 

グリコーゲン・ローディングの方法

■1日のうちに体重1㎏あたり10gの炭水化物を摂取する方法

2002年のオーストラリアの研究によれば、1日のうちに体重1㎏あたり10gの炭水化物を摂取すれば、同じ日に激しい運動をしない限り、炭水化物の蓄えを最大化できことがわかったという。

たとえば、体重65㎏の選手であれば650gの炭水化物を摂取すれば、1日でグリコーゲン・ローディングを完了することができるということになる。

ただしこの650gの炭水化物というのは、ごはん1杯の炭水化物量を51.9gで換算すると、なんと12.5杯にもなる。またマルト・デキストリンのような純粋な炭水化物であっても粉末自体は650gで済むものの、通常少なくとも3倍程度の水に溶かすことが多いと思われるので、最終的に飲み干さなくてはいけない溶液は2,600g程度とやはりかなりの量になる。

その意味では、かなり胃腸が頑丈で消化吸収能力に自信がある人向けの方法と考えられる。

■段階的に炭水化物からのカロリー摂取比率を上げる方法

レースの6日前に1時間の有酸素運動を行い、次いで運動の持続時間を3段階に分けて減らしてゆき、レースの前日には休息をとる(例:4~5日前は40分間・2~3日前は20分間・前日:休息)。一方、最初の3日間はカロリー摂取のうち炭水化物の比率を50%とし、残る3日は70%にまで引き上げる。この方法で、古典的糖質ローディング法(以下をご参照)と同様の効果が得られるといわれている。

これはテーパリングを行いつつ段階的に体内のグリコーゲン貯蔵量を高める方法であり、胃腸への負担が比較的マイルドと考えられる。またコンディション調整という側面から考えても、現実的な方法といえるだろう。

■一旦体内のグリコーゲンを枯渇させる方法(古典的糖質ローディング)

競技の1週間前に運動強度を上げ、同時に脂肪とタンパク質だけを摂取することで体内の炭水化物を一旦枯渇させる。次いで競技の2~3日前に炭水化物を摂取することで、通常以上の量の炭水化物の体内への取り込みを促し「最大限に蓄えられた状態」にする方法が、古典的糖質ローディングとして知られている。

しかしこの方法は、その過程で体内のグリコーゲン貯蔵量が極端に低下することで運動機能に悪影響が出るおそれや、精神的ストレスがかかるリスクがあることから、おすすめできない。

 

グリコーゲン・ローディングで期待できる効果

■長時間運動時の持久的パフォーマンス向上が期待できる

FTP以下の運動強度では、グリコーゲンをいわば着火剤のようにして脂質をエネルギーに変えている。もしグリコーゲンが枯渇してしまうと、体脂肪という膨大なエネルギー源があるにも関わらず、それらを十分に活用できずペースが維持できなくなってしまう。そこでグリコーゲンの体内貯蔵量を多くしておけばその枯渇が遅れるので、持久的パフォーマンスが向上する可能性がある(特に90分を超えるような長時間の運動時に効果があると考えられる)。

■高強度インターバルへの対応能力の向上

筋グリコーゲンはFTPを超えるような強度の運動時に必要とされる主要エネルギー源のひとつ。グリコーゲン・ローディングによりその貯蔵量を最大化しておけば、レース終盤で高強度のインターバルがかかった時に、それに対応できる足(エネルギー源)を残しておける可能性が高まる。

 

グリコーゲン・ローディングの注意点

■短時間のレースでは行う必要がない

90分未満(正確な時間については研究者たちの間でも意見が分かれている)の運動であれば、通常体内に貯蔵されているグリコーゲン量で賄えるので、わざわざグリコーゲン・ローディングを行う必要はないといわれている。

■体重が増加する

体内に貯蔵されるグリコーゲンが1g(4.1kcal)増える時は水3gと結合する。つまりグリコーゲン・ローディングに成功した場合は、必ず貯蔵量の増加分とその3倍の水の重量分だけ体重が増える。体格などによって多少の増減はあるものの、グリコーゲン・ローディングに成功すれば、平常時よりも体重が1.2~1.6㎏程度増加すると考えられる。体重増加は上りのパフォーマンス悪要因になるので、ヒルクライム時には特に注意が必要といえる。

■体質に合わない場合がある

高炭水化物食が体質に合わず体調を崩す場合がある。またタンパク質や脂肪酸の不足から、めまいや筋肉痛の度合がひどくなる場合がある。

■パフォーマンス改善に本当に効果があるかの結論は出ていない

グリコーゲン・ローディングを行っても「必ずしも実際のパフォーマンスの改善につながらない」「むしろマイナスの結果につながることがある」との選手・研究者・スポーツコーチの報告や意見もある(グリコーゲン・ローディングがパフォーマンス改善に本当に効果があるかは、結論が出ていない)。

■レース前に炭水化物を摂取して肝グリコーゲンを再充填する必要がある

筋グリコーゲンの最大化は前日の晩までに完了しておけば、高強度の運動をしない限りレースまでほぼ同水準を維持できる。しかし血糖値の維持に必要な肝臓のグリコーゲンは寝ている間に脳や神経系のエネルギー源としてかなりが使われてしまうので、レースの数時間前までは、消化のよい炭水化物を食べることで肝臓のグリコーゲンを再充填する必要がある。

 

参照URL

参考文献

  • アレックス・ハッチンソン著, 児島修訳・『良いトレーニング、無駄なトレーニング』・P285~288・草思社
  • 八田秀雄著・『乳酸と運動生理・生化学』・P39, P54・市村出版
  • 杉晴夫[編著]・『やさしい運動生理学』・P103~104・南江堂
  • ギャレット/カーケンダル編, 宮永豊総監訳・『スポーツ運動科学』・P102, 103・西村書店